メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.06.20

世界の食料安全保障ヘ日本ができる貢献

商工ジャーナル20236月号)「観天望気」掲載

農業・ゲノム

ロシアによるウクライナ産小麦の輸出妨害などで小麦価格が高騰し、中東やサブサハラの貧しい人たちが食料を買えなくなっている。こうした中、食料安全保障がG7広島サミットの大きなテーマになる。2008年の北海道洞爺湖(とうやこ)サミットでも、アメリカがトウモロコシをバイオエタノールの生産へ仕向けるようになったため穀物価格が上昇し、食料安全保障が主要テーマになった。長い目で見ると、穀物価格は低下傾向で安定している。しかし、時々予期できない事情で価格が高騰する。めぐり合わせなのか、日本のサミットがそれにシンクロしている。

ただし、小麦や大豆などの農産物の貿易については、それほど心配しなくてもよい。ロシアは予見しがたいが、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど他の主要な輸出国が輸出を制限したりすることはない。これらの国は生産量の6割から8割を輸出に向けているので、輸出を制限すると国内に農産物があふれ、価格が暴落し、生産者は打撃を受ける。このとき国際市場では供給が減少し価格が上昇するので、他の輸出国が利益を受ける。また、これらは所得が高い国である上、飲食料費支出のうち農産物の占める割合は1015%に過ぎないので、農産物が高騰しても飲食料費支出全体への影響は軽微なものにとどまる。

これに対して、米の貿易は問題が多い。まず、輸出量は、小麦2tに対し5000t4分の1に過ぎない。生産に占める輸出の割合は、小麦26%、大豆43%に対し、米は6%と、極めて低い。3大輸出国のインド、ベトナム、タイでも、同様なので、生産が少し減少しただけで輸出は大きく減少する。インドの場合、生産が11%減少しただけで、輸出量は100%減少する。

価格高騰時に自由な貿易に任せると、米は価格が低い国内から高い価格の国際市場に輸出され、国内の供給が減って、国内の価格も国際価格と同じ水準まで上昇してしまう。価格高騰前に輸入国だったとしても、国内生産があれば輸出される可能性がある。このとき収入のほとんどを食費に支出している貧しい人は、食料を買えなくなり、飢餓が発生する。途上国が輸出制限を行うのは、このためである。

3大輸出国のうち、一人当たりの所得が低いインド(2000t輸出)やベトナム(同500t)が輸出を制限すると、世界の貿易量が半減し、価格が大幅に上昇する(数値は21年)。輸入国で飢餓が生じてもインドなどに止めろとは言えない。米の貿易は極めて不安定である。

日本が米価維持のため行っている減反を止めれば、1700tの米を生産できる。このうち1000t輸出すれば、世界の米の貿易量は2割上昇して6000tになる。日本にとってシーレーンが破壊され輸入が途絶するという事態では、輸出もできない。このとき平時に輸出していた1000tを国内に回せば、12000万人の同胞の飢餓を回避できる。これは財政負担のかからない無償の備蓄の役割を果たす。

世界の食料安全保障への貢献が、日本の食料安全保障につながる。