メディア掲載 財政・社会保障制度 2023.05.23
週刊ダイヤモンド(2023年5月20日発行)に掲載
1940年から2020年までの日本の出生率低下の要因のうち、完結出生児数の減少要因
岸田政権が「異次元の少子化対策」に本腰を入れている。合計特殊出生率を上昇させるにはどこにターゲットを絞るべきか、専門家でも断言が難しいのが現状だ。
単に予算規模の問題ではないだろう。子育て支援の予算を倍増しても、出生率が上昇するとは限らない。これは、フィンランドの現状を見れば分かる。
日本では子育て支援のモデル国として度々話題になるフィンランド。実際、2020年のフィンランドの家族関係社会支出は対GDP比で約4%と、日本の約2倍だ。
だが、20年のフィンランドの出生率はわずか1.37だ。1989年から14年まで1.7を超えていた出生率は、10年をピークに急低下し、現在は1.4を下回っている。日本の21年の出生率1.3とほぼ同水準だ。フィンランドの出生率が急低下した原因は現在に至るまで正確に分かっていない。
では、出生率を引き上げるヒントはないのか。日本では婚外子の割合は約2%で、出産する女性のほとんどは結婚している。このため、大ざっぱな議論では、出生率は、「婚姻率(=1-生涯未婚率)」と「完結出生児数(夫婦の最終的な平均出生子ども数)」の掛け算におおむね一致する。この式から、完結出生児数は70年代から現在まで約2で(21年は1.9)、現在の生涯未婚率が約32%なので、出生率は約1.3(=(1-0.32)×1.9)となる。
興味深いことに、1940年も婚外子割合は約4%しかない。だが、当時の出生率は4であり、完結出生児数は4.27もあった。先ほどの式から逆算すると、1940年の生涯未婚率は約6%となる。
1940年から2020年までの出生率の低下を要因分解すると、生涯未婚率の上昇要因(婚姻率の低下要因)は約33%、完結出生児数の減少要因は約67%だ。後者の方が圧倒的に大きい。
以上の結果から、出生率を上げるためには、生涯未婚率を下げるよりも、完結出生児数を上げる戦略に特化した方が効果的だ。子ども3人目以降の出産で出産育児一時金を大幅拡充するなどの政策が有効ではないか。