メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.05.17

G7農相会合農水省の失敗

日本経済新聞夕刊:十字路(2023年5月2日)に掲載

農業・ゲノム

423日、主要7カ国(G7)農相会合の声明が出た。農林水産省は食料危機を契機に世界貿易機関(WTO)で削減対象とされている生産刺激的な補助金を正当化したかったようだが、失敗した。

農相は「生産性向上と持続可能性の両立」を盛り込んだと主張しているが、生産性向上とは規模拡大や品種改良などによって少ない生産要素でより多くを生産するというものだ。これは持続可能性と両立する。しかし、生産性を向上させなくても、農水省が考えているように、補助金で肥料や農薬の投入を増やせば生産は増加する。

農水省は、輸入に依存している小麦や大豆の生産を増加させようとしている。しかし、これは、コメの生産調整(減反)としてコメからこれらへの転作で食料自給率を上げるとして、50年以上も行って成功しなかった政策である。

国民は減反に年3500億円負担している。小麦や大豆には2300億円も財政支出し130万トン生産しているだけだ。同じお金で700万トンの小麦を輸入できる。減反を廃止すれば、700万トンのコメを1700万トンにでき、財政負担もなくなる。日本が1000万トン輸出すれば世界のコメ貿易を2割増やせる。輸入が途絶したら、輸出に向けたコメを食べればよい。

G7農相会合に参加した農相から在京大使公邸の夕食に招かれ、日本農業の課題について問われた。私は、米価維持の減反によって多数の零細兼業農家が維持され、農家の7割ほどがコメを作っているのに農業の16%の生産しか行っていないこと、しかし、多額の兼業所得が銀行業務を兼務できる農業団体の口座に預金され、その繁栄をもたらしているため、減反は止められないと述べた。農水省や農業団体から聞いたことと逆だったようである。