メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.04.10

気候変動対応 変わる米国農業

日本経済新聞夕刊【十字路】2023年3月30日

農業・ゲノム

米国とオーストラリアの農業関係の会議に参加し、気候変動対応や土壌健全化など農業の持続可能性への認識が高まっていることを実感した。特に注目すべきは、日本の農業関係者が表土流出や地下水枯渇など非持続性を批判してきた米国農業である。

石油業界に支持される米国共和党は気候変動に懐疑的である。しかし、ほとんどが同党支持者である農業者が、気候変動に真剣に向き合うようになっている。農業は温暖化ガスの2割を排出すると同時に、気候変動の影響を最も受けるからだ。彼らは補助金がなくても、表土・水分の維持や炭素貯蔵に役立つ不耕起栽培(農地を耕さない栽培方法)などに自発的、積極的に取り組んでいる。地方部を基盤とする共和党だが、地方でキャスチングボートを持つ農業者は、いずれ共和党の気候変動対応を変更させるかもしれない。

米国農務省主催の会議で米航空宇宙局(NASA)の地球科学課長は、衛星による地球水循環の分析から、米国のコーンベルト地域で、トウモロコシの収量が低下し小麦の収量が増えると報告した。日本の酪農・畜産は米国産トウモロコシをエサにしている。米国でその生産が減少していくと、日本の酪農・畜産はいずれ壊滅的な打撃を受ける。現在のトウモロコシ価格上昇は、序曲にすぎない。

消費サイドでも、温暖化ガスのメタンを発生させる酪農・肉用牛生産への批判から、植物性食品や培養肉の開発・実用化が急速に進んでいる。数年前までは価格が高いということが問題視されたのに、今の課題は食味の向上だという。牛が生産するもの全てが持続的ではないという発言があったのには驚いた。

日本の農業者や消費者は、これらの問題をどれだけ真剣に考えているのだろうか?