メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.03.15

輸入穀物依存の酪農を問う

日本経済新聞夕刊:十字路(2023年2月28日)に掲載

農業・ゲノム

酪農経営が厳しいそうだ。酪農から牧草をはむ牛を想像するが、放牧されている牛は2割未満。ほとんどは米国産の輸入穀物を主原料とする配合飼料を食べている。土地が広い北海道でも配合飼料依存が高まっている。栄養価が高いので乳量が増えるからだ。

今の酪農経営は穀物の国際価格に影響される。しかし、最近まで穀物価格は低位安定していた。乳価は2006年に比べ5割も高い。副産物のオス子牛価格も3万円が15万円ほどになった。このため酪農家の所得は15年から5年間1000万円を超えた(2017年は1602万円)。

日本の乳価は欧米の3倍、1頭当たりの乳量も世界最高水準だ。1年だけの飼料価格上昇で離農者が増加するなら、今の酪農は見直すべきではないか。輸入穀物依存の酪農は輸入が途切れる食料危機の際には壊滅する。大量のふん尿を穀物栽培に還元することなく、国土に窒素分を蓄積させている。経済学的には保護ではなく課税すべきだ。

121日付の本紙によれば、政府は余っている脱脂粉乳に世界貿易機関(WTO)が禁じている国産優遇補助金と輸出補助金を出すという。また、酪農界や野党はWTOで約束している輸入量を輸入しないよう求めている。関係国がWTOに提訴すれば、報復措置として日本からの輸入車等に高関税を課すことが可能だ。自らがWTOに違反しながら、どうして中国にWTO違反措置を是正するよう主張できるのか?

本来、酪農は土地に根差した産業だ。草を食べる反すう動物の牛に狭い牛舎で穀物を食べさせることが良いのか?出産後初乳だけ飲ませてすぐに母牛から子牛を引き離すことは、アニマルウェルフェア(動物福祉)からも好ましくない。政府が行うべきは放牧型酪農への転換である。