メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.03.08

今こそ米を食べよう

問題は食糧とエネルギーだ

『文藝春秋』2023年2月号「目覚めよ! 日本 101の提言」に掲載

農業・ゲノム

減反(生産調整)政策を引き起こした原因は、1960年代にさかのぼる。政府はJA(農業協同組合)と自民党の圧力に負けて、食糧管理制度の下で政府が米を買い入れる際の米価を大幅に引き上げた。

この結果、米の供給が増え需要は減り、過剰が生じたため、政府は70年から減反を開始し、農家に補助金を与えて生産を減少させ、政府の買入れ量を少なくしようとした。

95年に食糧管理制度を廃止した後は、これに代わり、供給を減らす減反が米価を高く維持するために使われるようになった。

食料自給率が低下した大きな原因は、国産の米の価格を大幅に引き上げてその消費を減少させ、輸入麦の価格を据え置いてその消費を増加させたことだ。60年頃は米の消費量は小麦の3倍以上もあったのに、今では両者の消費量はほぼ同じ程度になってしまった。500万トンの米を減産して800万トンの麦(大麦等を含む)を輸入している。

アメリカやEUは、価格は市場に任せ、財政からの直接支払いで農家を保護している。経済学的にはこの方が優れている。しかも、医療のように、本来財政負担が行われれば、国民は安く財やサービスの提供を受けられるはずなのに、減反は、補助金(納税者負担)を出して米価を上げる(消費者負担増加)という異常な政策である。納税者であり消費者である国民は二重の負担を強いられている。主食の米の価格を上げることは、消費税以上に逆進的だ。

減反を廃止して米価を下げれば、貧しい人のためになるし、3,500億円の減反補助金を廃止できる。米価が下がって困る主業農家への補てん(直接支払い)は1,500億円くらいで済む。サラリーマン収入に依存している兼業農家には、所得補償となる直接支払いは不要である。兼業農家が離農すれば、農地は主業農家が引き取り、その規模が拡大してコストは下がり収益があがるので、いずれ直接支払いも削減できる。

食料自給率向上にもつながる

シーレーンが破壊され輸入が途絶したとき、終戦直後の食生活を維持するだけでも、米は1,600万トン必要である。それなのに、終戦時の587万トンから67年1,445万トンに拡大した米の生産量は、今は、減反で670万トンしかない。食料危機が起きると国民の半数は餓死する計算だ。

最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止による米の増産とこれによる輸出である。平時には米を輸出し、危機時には輸出に回していた米を食べるのである。輸出は財政負担の要らない無償の備蓄の役割を果たす。

60年の食料自給率79%も、今の38%も、その過半は米である。つまり、食料自給率の低下は、米生産減少が原因なのである。世界の米生産は61年から3.5倍に増加している。日本は補助金を出して主食を減産させている稀有な国である。これに対して、EUは補助金を出して輸出を促進した。輸出とは国内の消費以上に生産していることなので、食料自給率は向上した。

現在の水田にカリフォルニア米並みの単収(面積あたりの収量)の米を植えれば、1,700万トン生産できる。国内消費700万トン、輸出1,000万トンとすると、米の自給率は243%となる。現在、食料自給率のうち米は20%、残りが18%であるので米の作付け拡大で他作物が減少する分を3%とすると、この場合の食料自給率は64%(20%×243%+18%-3%)に上昇する。

高米価・減反政策には、隠れた目的がある。銀行には他の業務の兼業が認められていない中で、JAはそれが可能な日本で唯一の法人である。高米価で米に兼業農家等が多く滞留して、これらの農家の兼業・年金収入や農地転用益がJAに預金された。JAは預金総額100兆円を超えるメガバンクとなり、その全国団体である農林中央金庫はこれをウォールストリートで運用して巨額の利益を得た。高米価はJAの発展の基礎となった。

政治はどうか? 小選挙区や参議院の一人区では、少数でも組織化された票が、与野党のどちらの候補者に行くかどうかで当落は決まる。JAのような既得権者が組織する固定票は無視できない。落選すると失業する。農林水産省も、零細な農家が農業をやめるのを好まない。農業界の政治力がなくなり、予算が獲得できなくなると、天下りに影響するからだ。食料危機が起きて餓死者が出ないと、減反は止められないのだろうか?