メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.03.01

世界の食料安全保障に日本が貢献できること

途上国の貧困解決への支援と米の輸出を G7サミットへの提言

論座に掲載(2023214日付)

農業・ゲノム

2023年、日本はG7サミットを主催する。ロシアのウクライナ侵攻を大きな原因として穀物価格が高騰し、中東やアフリカなどの途上国が食料危機に苦しんでいる。こうした中で、食料安全保障がサミットの大きな議題となる。すでにいくつかのG7構成国の在京大使館から私の意見を聴きたいという申し出がなされている。本稿では、日本自身が世界の食料安全保障に貢献する途を検討したい。

サミット開催国として、日本は“食料安全保障”に縁がある。2008年にも世界、とりわけ途上国は食料危機に見舞われた。日本が議長国となった北海道・洞爺湖サミットでは、食料安全保障が主要な議題となった。この原因となったのは、アメリカが、トウモロコシをガソリンの代替品であるエタノール生産に大量に振り向けるという政策を実施したことだった。トウモロコシは食用や飼料用だけでなく、エネルギーの原料にもなった。これによって、穀物需要が拡大したことから、世界の穀物価格はおよそ3倍に上昇し、輸入米の価格が高騰したフィリピンなどでは飢餓が生じた。アメリカは世界から批判された。しかし、価格高騰で農家が好況に沸いたアメリカのブッシュ政権は、政策変更に応じようとはしなかった。アメリカは、途上国の飢餓よりも農業票の獲得を優先したのである。

なお、本稿では、食料のうち主に穀物と大豆を取り上げる。これらは人に対して主要なカロリー源であるうえ、家畜のエサとなって間接的に牛乳や食肉などの畜産物を供給してくれる重要な農産物だからである(ただし、米のエサ用仕向けは少ない)。穀物のうち、生産量・消費量が多いのは、米、小麦、トウモロコシであり、これらを3大穀物と呼ぶ。また以下では、“油糧種子”に分類される大豆を含めて「穀物」という。

戦争や紛争が食料入手を妨げる

食料危機には二つの場合がある。

一つ目の食料危機は、物理的に食料にアクセスできない場合である。ロシアに包囲され陥落したマリウポリでは、ウクライナ政府や赤十字からの食料が市民に届かなくて、飢餓が生じた。東日本大震災でも地震発生後しばらくは食料が被災地に届かなかった。

途上国では、穀物価格が高騰していなくても、エチオピア北部の内戦のように紛争が発生することで、食料を物理的に入手できなくなる事態がしばしば生じる。また、輸送インフラが整備されていなければ、外国からの援助物資が港についても、奥地の村まで届かない。

アメリカ、オーストラリア、EUなど、輸出国で政情が安定している国では、東日本大震災のように災害などで局所的に輸送網が寸断される場合を除き、このような危機は起きない。これに対して、先進国でも食料の過半を輸入に依存している日本のような国では、台湾有事などでシーレーンが破壊され、輸入が途絶すると、国全体に大変な食料危機が起きる。

なお、農林水産省は、日本に食料危機が起きるケースとして、アメリカなどの輸出国で大不作が起こるなどのケースを挙げる。しかし、日本で平成のコメ騒動を引き起こした大不作でも26%の生産減少である。アメリカは小麦生産の6割を輸出しており、生産の6割が減少するほどの不作は起こらない。また、カナダ、オーストラリア、EUなど他の輸出国も同時に大不作となることは考えられない。よく異常気象で不作になる地域がニュースで取り上げられるが、同時に豊作になる地域もあり、世界全体では生産への影響は相殺されてきた。穀物の価格や需給は世界全体の供給から考えるべきであり、特定の国の不作を問題視すべきではない。アメリカが輸出できないならオーストラリアから輸入すればよい。

そもそも世界の供給は増加傾向にある。例外的に不作の時でも、たかだか数%の生産減にすぎない。世界の輸出量が減少して価格が騰貴しても、日本が買えなくなるようなことはない。穀物価格が実質価格で過去80年間最高水準までに騰貴した1973年でも、日本に食料危機は起きなかった。この時世界の穀物生産は3%減少しただけだった。

港湾ストライキも同じである。アメリカ、カナダ、オーストラリア、EUなどで、同時にストライキが起きて、日本の農産物輸入が途絶することはありえない。

日本の食料安保は軍事面の安保と一体

農林水産省はいろいろな食料危機を見つけてくるだろうが、結局日本で起きる可能性が高い食料危機とは、日本周辺で軍事的な紛争が起きたり、日本自体がこれに巻き込まれたりする場合である。しかし、そのリスクがないわけではない。中国が台湾に侵攻する際、制空権を確保しなければ上陸できない。アメリカ空軍から爆撃されれば上陸できないと中国が考えると、日本にある米軍基地を叩くかもしれない。その時は、日本も紛争に巻き込まれ、輸入は完全に途絶する。

もちろん、それまでに至らない部分的な途絶や途絶する期間の長短などさまざまな状況があるだろうが、近くで軍事的な紛争が起きれば、船会社が日本の港への輸送を拒否するなど、シーレーンに影響が生じることは確かだろう。

日本の食料安全保障は軍事的な安全保障と一体的に考えなければならない。エネルギーも同じである。日本の問題は、政府部内にこれらを総合的に分析・判断・処理する組織がないことである。縦割りの組織では有事に備えられない。食料・エネルギーなどの兵站が準備されていないと軍を動かすことはできない。軍事的な安全保障は、防衛省だけで対処できるものではない。

予測困難な食料価格急騰の「槍」

日本では起こらないが途上国で問題となるのは、食料への経済的なアクセスができなくなる、つまり食料を買えなくて飢餓が生じるという場合である。

物価変動を除いた穀物の実質価格は、過去1世紀ずっと低下傾向にある。人口増加を穀物生産の増加が大幅に上回ったからである(1961年比では、2020年人口2.5倍に対し、米3.5倍、小麦3.4倍)。次の図は、1960年を100とした場合の(物価変動を除いた)実質価格の推移である。名目価格では史上最高値と言われる現在の穀物価格も、実質価格では1973年よりもかなり低い水準にある。

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今後も従来からの作物改良に加え、ゲノム編集、培養肉などの画期的な技術による増産が期待される。将来、人口が100億人になるからと言っても、恒常的に穀物価格が高止まりして買えなくなるという心配はしなくてよい。特に、日本のような所得の高い国では、そうである。

しかし、1973年、2008年や今回の2022年のように、突発的な理由で需給のバランスが崩れ、価格が急騰するときがある。槍のように突出するのでパイク(pike)と言われる。

これは、いくら世界の食料需給モデルを精緻なものにしても、予測困難である。1973年の危機は、ソ連が大量の穀物買い付けを行ったことにより発生した。2008年はトウモロコシのエタノール生産向けの増加というアメリカの農業・エネルギーの政策転換が引き起こした。2022年はロシアのプーチンによるウクライナ侵攻である。これらの事件は、誰も予想できない。予想できない要素は、モデルに入れられない。しかし、結果として生じるパイクに、国際社会は対処しなければならない。

支出の半分以上を食料に充てる途上国

途上国の人たちは、支出額の半分程度またはそれ以上を、食料費、特に穀物などの農産物に充てている場合が多い。アフリカを中心に統計が明らかでない国が多いが、わかっている国だけでも、消費支出に占める食料の割合は、フィリピンとパキスタンがそれぞれ42%、カザフスタン43%、ケニア52%、ナイジェリア59%(2016年、アメリカ農務省調べ)となっている。平均値なので、これらの国には、この割合がもっと高い人もいるということである。

この人たちにとって、穀物価格が倍以上になると、パンや米を買えなくなって飢餓が生じる。今小麦価格が高騰し、中東やサブサハラ諸国で起きているのは、この種の危機である。

途上国の所得向上と食糧増産がカギ

この種の危機には、少し時間がかかるが、二つの対策がある。

需要面の対策としては、途上国の経済発展を支援して、かれらの所得を向上させることである。供給面の対策としては、食料・農産物の供給を増やして価格を下げることである。特に、国際社会は、途上国の食料生産に対する支援をおこなってきた。従来、国連が対象にしてきたのは、この種の危機であり、おこなってきたのは、貧困(所得向上)対策、食料増産対策である。

なお、日本では、金がなくて買えないという、この種の危機は起きない。2008年、日本で食料を買えないと感じた人はいなかったはずだ。このとき、日本の食料品消費者物価指数は2.6%しか上がっていない。日本の消費者が飲食料品に払っている金のうち87%が加工・流通・外食への支出である。輸入農水産物に払っているお金は、2%にすぎない。その一部の輸入穀物価格が3倍になっても、全体の支出にはほとんど影響しない。このような食料支出の構造は、欧米などの先進諸国に共通している。

穀物価格が上昇すると、これが中国の“爆食”によって引き起こされたものだとか、日本が中国人に買い負けるなど、食料危機を煽る人たちが出てくる。これらの人の中には、世界で起きている食料危機を国内の農業保護の拡大につなげたいという意図を持っている人が少なくない。しかし、中国人に高級マグロを買い負けても、小麦輸入の上位3カ国、インドネシア、トルコ、エジプトに、日本が小麦を買い負けることはない。

物理的なアクセスが問題となって生じる食料危機は、多くは内戦や戦争など軍事的な紛争と結び付いている。これが起きないようにする手段は、軍事的な紛争を防止することである。しかも、実際に紛争が生じ、シーレーンなどの物流ルートが遮断されるような場合には、被害や影響を受ける国が自ら対処するしかない。日本へのシーレーンが破壊され輸入が途絶するときには、日本が備蓄や国内生産の増産で対応するしかない。これに対して、FAO(食糧農業機関)やWTO(世界貿易機関)などの国際組織が、できることはない。

G7サミットで取り上げる食料危機は、経済的なアクセスが困難となるケースが主となろう。これについての根本的な対策としては、先にあげた途上国の所得向上と食料増産である。しかし、これらは長期的な課題や対策であって、目前の食料危機を解決するものではない。

食料の輸出制限は危機に役立たない

このため、短期的な解決策として、穀物などを直接届けるという食料援助が行われてきた。国際穀物協定による食糧援助規約によるものや、2020年のノーベル平和賞を受けた国連世界食糧計画(WFP)を通じて行われるものがある。2022年には、ウクライナからの小麦輸出が妨害されないような取り決めもなされた。

ただし、援助に向けられるのは、輸出国で過剰となった農産物の処分としての性格が強い(現在日本では過剰となった脱脂粉乳を食料援助として処分することが検討されている)。供給が過剰な時は国際価格が低位にあるときであり、不足しているときは価格が高騰しているときである。このため、国際価格が低く途上国が十分に買うことができるときに、食料援助は増加し、本当に危機が生じたときに援助量が減少するという問題がある。

同様の例として、穀物の国際価格が上昇した1995年から97年にかけて、EUは、域内の消費者、加工業者に国際価格よりも安価に穀物を供給するため、輸出税(高い国際価格と低い域内価格の差)を課した。ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉では輸出補助金により途上国に安価な食料を供給しているというのがEUの主張だったが、国際価格が上昇し、途上国にとって食料入手が困難となる局面では、輸出税により域内市場への供給を優先したのである。

貿易面で考えられるのが、各国がおこなう輸出制限に対する規制である。ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉で、輸入国である日本は、食料安全保障のためには、輸出国がおこなう輸出制限を規制すべきだと提案し、これをWTO農業協定第12条として実現させた。交渉に当たった私も、このような規定は輸入国の食料安全保障に有効だと考えていた。また2022年のWTO閣僚会議でも、輸出制限に対する規制が重要であることを確認する声明が出された。

しかし、私自身、世界の農産物貿易や輸出制限をおこなう国の実情についての理解が進むと、WTO農業協定第12条はほとんど役に立たない規定だとわかるようになった。その理由については、「WTOは食料危機を解決できるのか」(論座2022年6月23日付)で詳しく説明しているが、ここで再度簡単に説明したい。

インドが小麦の輸出を制限しても影響は小さい

まず、輸出制限をおこなう国の実情である。

2022年も20カ国以上が輸出制限を行っていると大きく報道されたが、これらの国の中で、米についてのインドやベトナムを除いて、国際貿易に影響を及ぼすような国はない。

世界第2位の小麦生産国インドが小麦の輸出制限を行ったことが、世界の食料危機を招くとして報道された。確かに、インドの小麦生産量は1億トンを超える。しかし、輸出量は2020年93万トン、2021年には大きく増加したが、それでも609万トンに過ぎない。人口が多く国内消費が大きいからだ。また、生産量の水準が大きいため、少しでも豊作になると輸出が大きく増加し、不作になると大きく減少する。不安定な輸出国である。これに対して、世界全体の貿易量は約2億トン、アメリカやカナダ、オーストラリアの輸出量は、2~3千万トンである。インドが輸出を禁止しても、世界の小麦需給に大きな影響はない。ちなみに、生産量第1位は中国の1億4千万トンであるが、輸出量はわずか4千トンに過ぎない。

途上国に食料輸出を強いることはできない

次に、これらの国のほとんどは途上国である。自由な貿易に任せると、小麦は価格が低い国内から高い価格の国際市場に輸出される。そうなれば、国内の供給が減って、国内の価格も国際価格と同じ水準まで上昇してしまう。従来は小麦の輸入国だった場合でも、国内生産があれば輸出される。このため、輸入国でも輸出制限を行う可能性がある。

収入のほとんどを食費に支出している貧しい人は、食料価格が2倍、3倍になると、食料を買えなくなり、飢餓が発生する。輸出制限を行う国はこれを防ごうとしたのである。つまり、輸出制限は自国民の飢餓防止のために防衛的に行っているに過ぎない。このような国に対して、国際社会が、「自国に飢餓が生じてまでも輸出をすべきだ」などとは、とても主張できない。

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FAO(国連食糧農業機関)のデータベースから筆者作成

他方で、小麦、トウモロコシ、大豆の主要輸出国である、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチンなどが輸出制限を行うことはない。したがって、WTO農業協定第12条が働くことはない。

まず、これらの国の所得は高いので、穀物価格が上昇しても影響を受ける消費者は少ない。先進国では、食料支出の9割は加工・流通・外食に対するもので、農産物に対する支出はわずかである。その一部である穀物の価格が上昇しても、食料支出全体への影響は軽微なものに過ぎない。逆に、生産者は価格上昇の利益を受ける。

また、これらの国の輸出は小麦で生産量の6~8割を占める。輸出しなければ、国内に穀物があふれ価格は暴落する。他方、国際市場では供給が少なくなった分、価格が上昇するので、他の輸出国は利益を得る。輸出制限は輸出国の利益にならない。

アメリカのような大輸出国が輸出制限をすることはないし、インドのような途上国が輸出制限をしても、国内に飢餓が生じてまで輸出しろとは言えない。輸出制限についての国際規律は、このような限界を持っている。世界の食料安全保障の解決のためには、途上国における貧困の解決、食料生産の拡大がより重要なのだ。

米は貿易が不安定な例外的作物

しかし、穀物の中で米だけは例外である。米の3大輸出国は、インド、ベトナム、タイである。先進国ではない。所得の比較的高いタイを除いて、2008年穀物価格が高騰したとき、インド、ベトナムは輸出制限を行った。

しかも、小麦などと異なり、米の場合は、生産に占める輸出の割合が極めて低い。小麦26%、大豆43%に対し、米は6%に過ぎない薄い市場(a thin market)である。輸出量としても、小麦2億トンに対し5千万トンと4分の1に過ぎない。そこで3大輸出国のうち、1人当たりの所得が低いインド(2千万トン輸出)やベトナム(5百万トン輸出)が輸出を制限すると、世界の貿易量が半減し、価格が大幅に上昇する(数値は2021年)。

これらの国でも生産に占める輸出の割合が極めて低いので、輸出制限をしなくても、生産が少し減少しただけで輸出は大きく減少する。インドの場合、消費量が変わらないとすれば、生産が10.7%減少しただけで、輸出量は100%減少する。米の貿易は極めて不安定である。

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FAO(国連食糧農業機関)のデータベースから筆者作成

さらに、米の場合、輸入国も途上国が多いという事情がある。2008年インド、ベトナムの輸出制限により、米の輸入国であるフィリピンなどは大きな被害を受けた。もちろん、インド、ベトナムという所得水準が低い途上国が自己防衛的に輸出制限を行っているので、「フィリピンのために輸出制限をやめろ」と言うことは政治的に困難である。

つまり、穀物の中で米は、食料安全保障の観点から大きな問題を抱えているのである。

日本だけが安定的な輸出国になれる

しかし、G7の中で、この問題の解決に貢献できる唯一の国がある。それは我が日本である。国内市場しか見てこなかった日本は50年以上も減反政策で米の生産を減少させてきた。今の国内生産は670万トンを下回るまで抑制されている。しかし、潜在的な生産力は1700万トンある。減反をやめ、700万トンを国内で消費し、1000万トンを輸出してはどうだろうか。政府は農産物の輸出振興をおこなっているが、最も有望な輸出品目は日本のおいしい米である。

これによって、世界の米の貿易量は2割上昇して6千万トンになる。タイやベトナムも5~6百万トン程度の輸出しか行っていない。日本はインドに次ぐ世界第2位の米輸出国になる。しかも、生産量の6割を輸出していれば、生産が減少したとしても、輸出量はインドのように減少しない。10%の生産減少で17%の輸出減少である。日本は安定的な輸出国となる。これは、穀物貿易の中で食料安全保障の観点からは最も弱い(vulnerable)部分である米貿易に対して、瑞穂の国、日本が行う貴重な貢献ではないだろうか?

日本にとってシーレーンが破壊されるという、物理的なアクセスが困難となる事態には、輸出もできない。このとき平時に輸出していた1000万トンを国内に回せば、1億2千万人の同胞の飢餓を回避できる。

これは財政負担のかからない無償の備蓄の役割を果たす。

世界の食料安全保障への貢献が、日本の食料安全保障につながる。「情けは人のためならず」ではないだろうか?

減反を廃止すれば大量の輸出が可能

それなのに、農林水産省は財務省の圧力に負け、減反補助金をわずかながら減らすために、水田を畑地に転換して米生産を減らし、無駄に財政負担がかかる麦・大豆の生産を振興しようとしている。

現在、国産の麦・大豆について、消費者は国際価格よりも高い価格を払っているうえ、現在2300億円の財政負担をして生産を振興しているが、130万トンの麦・大豆しか生産できていない。2300億円で小麦の年間消費量を上回る700万トンほどの小麦を輸入・備蓄できる。危機が起きたときに、130万トンしかないのと700万トンあるのとでは、大きな差である。

そんなことをしなくても、減反を廃止さえすれば3500億円の財政負担がなくなる。そのうえ、大量の米を輸出でき、貿易赤字減少に貢献できる。危機の時には1000万トンの米備蓄がある。

水田をなくせば、水資源の涵養や洪水防止などの多面的機能も損なう。農林水産省にも財務省にも、大局を見ることができる人がいなくなったのだろう。日本の行政機構が劣化しているようで、残念である。

アジアの米備蓄の仕組みを世界へ

食料危機に対処する方法は、備蓄と食料増産である。

日本は、2002年ラオスで開催されたASEAN諸国と日中韓3カ国の農相会議で、東アジア地域における自然災害等の緊急事態に対処するための米備蓄制度を提案した。この会議には、私も交渉官として参加した。以降試行期間を経て、ASEAN諸国と日中韓3カ国による米備蓄制度(APTERR)が2012年から実施され、これまでも危機時にはフィリピンやカンボジアなどに米を支援している。

これは日本のイニシアチブによって実現した、地域の国家間の食料安全保障システムである。このアイデアと仕組みを、食料安全保障が問題となる地域に提案できないだろうか? 例えば、アフリカには、イギリスとEU(旧宗主国)にアメリカを加えた小麦の備蓄制度をつくるなどである。

これも、世界の食料安全保障に対する日本の大きな貢献となるだろう。また、我が国がアジア太平洋地域の安定に地道な努力を行ってきたことをG7サミットの場でアピールできる良い機会ではないだろうか。