酪農から牧草を食む牛を想像するが、放牧されている牛は2割に満たない。ほとんどは米国産の輸入穀物を主原料とする配合飼料を食べている。土地が広い北海道でも配合飼料依存が高まっている。栄養価が高いので乳量が上がるからだ。また、配合飼料を扱う農協は、高い生乳価格と高い配合飼料価格の両方で手数料収入を稼いだ。
今の酪農経営は穀物の国際価格に影響される。しかし、最近まで穀物価格は低位安定していた。乳価は2006年に比べ5割も高い。副産物のオス子牛価格も3万円が15万円ほどになった。このため酪農家の所得は2015年から5年間1000万円を超え(2017年は1602万円)、酪農経営は絶好調だった。
日本の乳価は欧米の3倍、1頭当たりの乳量も世界最高水準である。それなのに、1年だけの飼料価格上昇で離農者が増加するなら、今の酪農は見直すべきだ。輸入穀物依存の酪農は、輸入が途切れる食料危機の際には壊滅する。大量の糞尿を穀物栽培に還元することなく国土に窒素分を蓄積させている。経済学的には保護ではなく課税すべきだ。
2014年にバターが不足したのも、現在脱脂粉乳の在庫が増加して生乳を減産しなければならなくなったことも、農林水産省にバターを輸入させないように要求する酪農界に責任がある。現在も酪農界は、WTO(世界貿易機関)で約束している輸入量を輸入しないよう求めているが、バター不足を招く恐れがある。また、農林水産省は、余っている脱脂粉乳にWTOが禁じている国産優遇補助金と輸出補助金を出すという。関係国がWTOに提訴すれば、報復措置として日本からの輸入車等に高関税を課すことが可能だ。
本来酪農は土地に根差した産業だ。草を食べる反芻動物の牛に狭い牛舎で穀物を食べさせたり、運動をさせなかったり、出産後すぐに母牛から子牛を引き離したりすることは、アニマルウェルフェアに反する。量販店がアニマルウェルフェアの遵守を要求すれば、日本の酪農は市場から排除される。政府が行うべきは放牧型酪農への転換である。