メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.02.03

ESGと通商ルールの限界

日本経済新聞夕刊:十字路(2023年1月18日)に掲載

農業・ゲノム

企業活動について、プロダクトの特性だけではなく、ESG(環境・社会・企業統治)や企業の社会的責任(CSR)にどのように取り組んでいるか、環境負荷の削減など適切な生産方法を採用しているか、などのプロセスが重視されるようになっている。

しかし、プロセスはプロダクトからは分からないことが多い。有機農産物やアニマルウェルフェア(動物福祉)に関心があっても、化学肥料や農薬の使用を抑制した農産物かどうか、放牧された牛の牛乳や放し飼いされた鶏の卵か、狭い牛舎やカゴで飼われた動物のものか、プロダクトだけでは消費者は判定できない。遺伝子組み換え大豆を原料としたかは、加工度が高ければDNAが残らないので科学的な検査をしても難しい。

一つの解決方法として表示がある。特定の(多くは民間の)機関によってプロセスが一定の基準を満たすと「認証」された事業者がプロダクトに認証マークを表示することで、消費者はプロセスを認識できる。流通業者などが認証マーク付きのプロダクトしか扱わないとすれば、多くの事業者がそのプロセスを順守するようになる。

しかし、通商面ではプロダクトを念頭に作られている世界貿易機関(WTO)協定は、プロセスの違いを十分に調整できていない。カーボンプライシングに十分に取り組んでいない国に対して、輸入品に課税し輸出品には還付することで調整することは、競争条件を等しくするとともに、そのような国に削減を促す効果がある。しかし、プロダクトが同じなら同じように扱うべきだとするWTOの基本原則に反する恐れがある。現行規定の解釈で解決できなければ交渉によって新しい規定を作ることが考えられるが、その場を提供するWTOが機能不全に陥っている。