メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.12.16

米政治の分断、気候対策に影

日本経済新聞夕刊:十字路(2022年12月13日)に掲載

エネルギー・環境 米国

政府は二酸化炭素(CO2)に値段をつけるカーボンプライシング導入の方針をまとめた。その一つの排出量取引は政府から一定の排出枠を与えられた企業がその枠を超えて排出する場合、他の企業が使い残した枠を市場で購入するというものである。

排出量の市場価格よりも安く排出を削減できる企業は多く削減して余った排出量を市場で売却すれば、市場価格よりも削減費用がかかる企業は削減しないで市場から排出量を追加購入すれば、それぞれ利益を得る。排出は当初決められた総量の範囲内に収まるとともに、社会的に最も低いコストで削減できる。

国際的には排出量取引はフロン物質削減対策としてモントリオール議定書で導入され、CO2については京都議定書で国家間のスキームが規定された。国内でCO2について導入しているのは欧州連合(EU)、韓国などである。

1990年に酸性雨対策として二酸化硫黄の排出量取引を導入したのは米国だ。2007年には、後に共和党の大統領候補になったマケイン上院議員が市場の活用が安く削減する方法だと主張し、民主党のリーバーマン上院議員とCO2排出量取引法案を提出し成立しなかったが4割を超える上院の賛成を集めた。

しかし、共和党は石油産業やトランプ氏を支持する石炭や鉄鋼などの労働者の意向を受けて気候変動対策に消極的となり、下院の気候危機委員会を廃止しようとしている。米国ではリーマン・ショックで政府への信頼が揺らいだうえ、科学を主張する「エリート」への反発もある。

マケイン氏は特定の業界や選挙区の利益を離れて米国や世界という大きな視野から政策を考えた人物だった。気候変動対策を推進するバイデン政権にとって、彼の不在は残念だろう。