メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.11.09

【数字は語る】インフレの悪影響は顕在化 利上げは日本の財政を直撃 八方ふさがりの日銀の判断は

週刊ダイヤモンド(2022年10月29日号)に掲載

経済政策

~2.5%~

実質金利が0.5%で期待インフレ率が2%のときの名目金利


日本のインフレは今のところ米国ほど深刻ではないものの、インフレが重大な政治問題に浮上した場合、何が起こるのか。最も難しい判断を迫られるのは日本銀行であろう。

日本銀行法第2条は、「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」と規定している。インフレが国民経済の健全な発展を阻害する前に、日銀は対応を迫られる。

米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は、インフレ抑制のために段階的な利上げを進めている。しかし、FRBのように日銀が利上げに踏み切るのは政治的に極めて難しい。理由は単純で、財政を直撃するからだ。

日本の普通国債残高は2022年度末で1026兆円に上ると見込まれている。この状況で金利が1%ポイント上昇すれば、数年かけて、国債の利払い費が年間で10兆円近くも増加してしまう。100兆円規模の国の一般会計予算(当初)の約1割に相当するのだ。

しかも、利払い費の増加はこの程度で済むとは限らない。金利と物価の関係を示す「フィッシャー方程式」では、「名目金利=実質金利+期待インフレ率」という関係が成立する。

総務省が公表した8月の消費者物価指数(CPI20年基準)は、生鮮食品を除く総合指数が前年同月比2.8%上昇した。実質金利が0.5%のままでも、インフレ圧力が顕在化し、期待インフレ率が2%に高まれば、名目金利は2.5%となる。金利が1%ポイント上昇すると仮定した場合より、財政への影響ははるかに大きい。

なお、現在のところ、物価の上昇は一時的だというのが日銀の見方だ。この姿勢は21年夏ごろまでのFRBと似ているが、パウエル議長の当時の見立ては間違いだった。米国のインフレ率は当初の予測を大幅に上回ったからだ。

では、日銀はどうか。仮に日銀がFRBと似た状況に陥った場合、日銀はインフレ抑制のために政治的な摩擦を乗り越えて利上げを決断できるのか。今からでも頭の体操をしておく必要があろう。