メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.10.26

食料安保、見直すべきは基本法か

日本経済新聞夕刊【十字路】2022年10月4日

農業・ゲノム

食料安全保障強化を理由に食料・農業・農村基本法が見直される。農業界は食料危機への不安を農業保護の増大につなげたいのだろう。

しかし、終戦の食料難時代、食料を得るため着物が一枚ずつなくなるタケノコ生活を送ったのは、都市生活者で農家ではない。食料安全保障は農業界の主張ではない。

農政は、低い食料自給率を強調し、危機のときに頼れるのは国産だとして、食料安全保障を農業保護に結びつけてきた。しかし、同じ2300億円かけて供給されるのは、国産の麦・大豆が130万トン、輸入(備蓄)麦が700万トン。危機時に、どちらを国民は選択するのだろうか?

さらに、シーレーン(海上交通路)が破壊されると肥料や石油も輸入できないので、この国内生産も激減する。

逆に生産余力のあるコメについては農業保護を優先して生産を減少させてきた。食料安全保障の観点からは、平時に国内消費を上回る量のコメを生産して輸出を行い、麦や牛肉などの輸入が途絶する危機時には輸出していたコメを含めて消費するしか、飢餓を免れない。危機が長引き、石油不足などで農地あたりの生産量が減少するときには、新たに九州と四国の面積に相当する農地を調達しない限り、国産では自給できない。これに備えるためには、平時に安く輸入できる穀物を大量に備蓄しておく必要がある。

現基本法の理念は食料安全保障と多面的機能である。コメを作る生産装置である水田を水田として活用するからこそ、いざというときに国民に十分なカロリーを提供できるコメを生産できるし水資源涵養(かんよう)や洪水防止などの多面的機能を発揮できる。ところが、水田として利用しない減反政策を半世紀以上続けている。改めるのは基本法と農政のどちらだろうか?