メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.10.19

コメ増産こそ食料安保の要

日経ヴェリタスに掲載(2022年10月2日号)

農業・ゲノム

ウクライナ危機を受けて、穀物の供給不安が強まっている。とはいえ、小麦はアメリカ、カナダやオーストラリアなど先進国からの輸出が多い。価格が上昇しても、これらの主要輸出国は輸出を制限しないし、主要輸入国であるインドネシアやトルコに日本が買い負けることもない。一部の途上国が小麦の輸出を制限したとしても、影響は限定的だ。これは、トウモロコシや大豆などでも同じだ。

fig01_yamashita.pngfig02_yamashita.png

しかし、コメが不足すると世界の食料供給に深刻な影響が及ぶ。コメは世界生産に占める貿易の割合が低い。しかも、コメの主要輸出国であるインドやベトナムには、貧しい人々が依然多い。国内供給を優先した残りを輸出するので、わずかな不作で貿易量は大きく減少する。

世界最大の輸出国インドでは、国際価格が上昇すると、国内からコメが輸出されて国内価格も上昇し、貧しい国民が買えなくなる。これを防ぐため輸出を制限する。しかもコメの輸出先はアフリカや東南アジアなどの途上国が中心だ。現実にインドは9月上旬に輸出を一部制限した。2008年のようにベトナムがこれに追随すれば、世界で深刻な食料危機が起きる。

コメの世界最大の生産国は14000万トン程度(2020年)の中国だが、227万トン輸出して290万トンを輸入しており、63万トンの純輸入だ。インドが1950年の50万トンから1446万トンへ輸出を拡大していることからすれば、中国のコメ輸出の拡大が世界的な食料危機を回避する上で重要になる。

鍵を握るのは、実は日本だ。日本がコメを増産し輸出するなら、日本の高級米を中国が購入し、玉突き的に中国の安価なコメが輸出に回る。

だが現実は逆だ。日本の農政は口では食料安全保障を唱えながら、毎年3500億円もの巨費を投じてコメの減反政策を継続している。減産に補助金を出して米価を上げているのだ。世界的に異常な政策だ。

これは消費者に高い負担を強いるばかりか、食料安全保障にもそぐわない。海外からの船が日本に近づけなくなれば、小麦も牛肉も輸入できない。カロリー源は国内で生産できるコメに頼らざるをえないが、農林水産省と農協は22年のコメ生産を675万トン以下に抑えようとしている。国民に終戦直後と同水準のコメ配給を行うためには1600万トンが必要なのに、これでは国民の半分以上が飢えてしまう。

ウクライナ危機と国際環境の変化で、この想定は絵空事ではなくなっている。米価が下がって農家が困るというなら、欧米のように財政から直接支払いをすればよい。減反を止めれば、1700万トン生産し1000万トン輸出できる。輸入が途絶したときは輸出していたコメを食べて、飢えをしのげばよい。輸出は無償の備蓄の役割を果たすのだ。

コメの増産と輸出は、国際貢献という見地からも、日本自身の食料安全保障の観点からも理にかなっている。今、コメ増産に向けた政策転換が求められている。