メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.10.11

【数字は語る】予算は過去2番目の水準 ドーマー命題で分かる日本財政への処方箋

週刊ダイヤモンド(2022年9月17・24 合併号)に掲載

経済政策

~333%~

債務残高(対GDP)の収束値
*内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2022729日)などを基に筆者試算


財務省は2023年度予算の概算要求を8月末に締め切り、2年連続で110兆円規模の水準となった。23年度の予算編成における懸案事項は、①脱炭素社会の実現に向けた「グリーントランスフォーメーション(GX)」、②子育て支援の司令塔として234月に創設する「子ども家庭庁」、③ロシアのウクライナ侵攻を契機とする防衛予算といった課題への対応だ。

内閣府の2246月期の国内総生産(GDP1次速報値によると、実質GDP成長率は前期比0.5%となり、実質GDPの実額は新型コロナウイルス感染拡大直前の191012月期の水準を初めて上回った。

今後は実質GDPの拡大が予想されるが、財政の見通しはどうか。この判断には「ドーマー命題」が役立つ。ドーマー命題とは、「名目GDP成長率が一定の経済で、財政赤字を出し続けても、財政赤字(対GDP)を一定に保てば、債務残高(同)は一定値に収束する」というものだ。中長期的に一定に維持する財政赤字(同)をδ、名目GDP成長率をnとするとき、債務残高(同)は一定値(δ÷n)に収束することを示せる。

では、どのような数値を利用するとよいのか。まず、名目GDP成長率nは、1995年度からの名目GDP成長率の実績平均0.36%を用い、n0.36%としてみよう。また、財政赤字(同)δは、22729日に内閣府が公表した「中長期の経済財政に関する試算」の値を利用する。

このうち、名目GDP成長率が0.5%の低成長ケースでは、財政赤字(同)は31年度に1.2%になる。よって、財政赤字(同)δ1.2%として、ドーマー命題による債務残高(同)の収束値は、δ÷n3.33と求められる。これは、現在217.6%の債務残高(同)が将来的に333%へ膨張する可能性を意味する。

内閣府の試算では、31年度の財政赤字(同)が1.2%という予測だ。ドーマー命題より、債務残高(同)を200%程度に留めるには、更なる社会保障と税制の改革を行い、財政赤字を0.7%程度まで縮小する努力が必要となる。