メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.09.20

国が進めるコメの減反政策はチグハグだ

週刊東洋経済に掲載(2022年9月3日号)

農業・ゲノム

農業の世界は多くのウソがまかり通っている。ほとんどの国民が農業と縁がない中、国やJA(農業協同組合)の主張が鵜呑みにされているのだ。

中でも最も信じられているのが、「日本の食料自給率が低いのは問題だ」という言説。自給率は国内生産を国内消費で割ったものだから、消費が拡大すれば自給率は下がるもの。終戦直後の食料不足期は、国民が飢えていても輸入が途絶していたので自給率は100%だった。

こうした欺瞞があるにもかかわらず、農業者や国は「自給率を上げるために国産の農産物を振興しよう」という話にすり替え、農業予算を増やして農業を保護してきた。しかも、それで自給率が上がったかというとむしろ下がっている。もし実際に上がれば予算が取れなくなるから、農林水産省はむしろ困ってしまうだろう。

あまり指摘されていないが、国産農産物の生産を拡大するために莫大な予算が投じられている。国は年間2300億円の予算を投じて小麦や大豆を生産させているが、生産量は130万トンに満たない。しかも、国産の小麦は品質が安定しないので製粉会社は使いたがらない。このお金があれば、1年の消費量に当たる700万トンの小麦を輸入できる。

家畜の餌となる餌米の生産振興も同様だ。年間950億円の減反補助金をつけて主食用米から餌米への転作を奨励し、生産されるのは66万トン。同じ財政負担で400万トンのトウモロコシを輸入できる。非常に無駄なことだ。

矛盾しているのが、国は食料危機や低自給率の問題をあおる一方で、国民にとって最も必要なカロリー源であるコメの生産を減反政策によって減らしてきたことだ。

農水省が示した今年度産のコメの生産目標は675万トンで、「これ以上作ってはいけない」としている。有事にシーレーン(海上交通路)が途絶して畜産物などの食料が輸入できなくなったとき、国民はこの量のコメでどうやって生きればいいのか。終戦直後のコメの配給量は11人当たり23勺だが、これを今の日本の人口に置き換えると年間1600万トンと倍以上のコメが必要になる。

コメの国内需要が減っている以上、生産量を減らさざるをえないというが、これは国内市場しか見ていない主張だ。輸出すればいい。輸出先として有力なのが中国だ。中国のコメの消費量は年間で2億トン近くある。日本の約20倍の市場だ。以前はインディカ米のような長粒種が食べられていたが、今は日本米のような短粒種が3?4割を占めている。生のコメを中国に輸出するにはまだ検疫上の制限があるため、規制緩和が必要だが、レトルト食品なら問題ない。今後の可能性はあるだろう。

輸出する食料は、食料危機のときの備蓄になる。しかも、倉庫に入れておくのと異なり、平時には儲かる備蓄だ。