メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.09.07

物価対策、政治主導の限界映す

日本経済新聞夕刊【十字路】2022年8月31日

農業・ゲノム

物価対策として、20%上がるはずの麦の政府売り渡し価格が据え置かれた。財政負担は半年で350億円だという。ガソリン価格も補助金で抑制されている。

おにぎりを食べている人よりも高級な調理パンを食べている人、電車を利用する人よりも高級車を持っている人を優遇する。貧しい人が困るなら所得補助をすべきだ。

ガソリン価格の上昇は炭素税を導入したのと同じ効果を持つ。電車の利用も増えるだろうし、ガソリン節約的な車の技術開発も促進される。ガソリン補助金は脱炭素化と矛盾する。

パンは上がっているがコメは下がっている。貧しい人には朗報なのに政府・農協は減反を強化して米価を引き上げようとしている。食料自給率が低下した原因は、1970年代以降国産のコメの価格を2倍以上にしてその消費を減少させ、輸入麦の価格を長期間据え置いてその消費を増加させたことだ。麦価据え置きは食料自給率向上に反する。

減反を廃止して米価を下げれば、物価対策になるし、食料自給率も向上する。財政的にも3500億円の減反補助金を廃止できる。米価が下がって困る主業農家への補塡は1500億円くらいで済む。

以上のように主張する政党はない。車を持っている人からすればガソリン価格が上がらない方がよいし、農業への依存度が低い兼業農家でも米価は高い方がよい。与野党とも選挙を考えると敵はつくれない。政治主導では特定のグループには最適でも国家として整合性のとれた政策は採用されにくい。各省も既得権者を見て政策をつくっている。

小泉純一郎内閣の経済財政諮問会議はそれなりに機能した。政党や省庁から離れて、大局的な見地から政策を提言する政府内組織をつくれないだろうか?