メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.08.24

コメ増産と同時に「回転備蓄」

産経新聞 2022年8月15日に掲載

農業・ゲノム

中国による台湾侵攻の危機が高まっている。台湾有事が起きれば、日本のシーレーン(海上交通路)が使えなくなる可能性がある。食料輸入が止まり、国産しか手に入らなくなれば、日本でも食料危機が起きるかもしれない。農林水産省が発表した今年のコメの生産見通しは、わずか675万トン。戦後の配給量から見ると、国民の半数以上に行き渡らない計算になる。

国民を飢えさせないためには、どうしたらいいのか。まずはコメの増産をすべきだ。コメの生産はこの半世紀で半減している。その理由は、米価を維持するため、政府が生産抑制を行う「減反政策」を長年、行ってきたからだ。平成30年度で廃止したと公表されたが、生産量の数値目標を廃止しただけで、コメの転作に補助金を出す政策は残っており、増産は進んでいない。

コメの生産を増やして、平時は輸出し、有事の際は輸出していたものを食べれば、危機はしのげる。欧米など多くの国ではこのような態勢ができている。ロシアもウクライナ侵攻を機に小麦の禁輸措置をとったが、国内価格を抑え、国民に小麦を食べさせようという狙いがあったからだ。

だが、日本の国土は狭いので、国産だけに頼るのも限度がある。シーレーンが使えなくなると石油も入らなくなる。農業機械が動かせず、肥料や農薬も使えなくなる。そうすると、今の面積当たりの収量が激減してしまい、食料危機は免れない。

生産を増やすだけでなく、備蓄も合わせて行わなければいけない。食料安全保障が注目されると、輸入はダメで国産しか信じられないと思い込む人が多いが、備蓄という観点も必要だ。海外から食料を輸入して大量の備蓄をする。古くなったら新しいものに入れ替えるという「回転備蓄」をやるべきだ。

政府は防衛費を増額し、武器や弾薬を整備する姿勢を示しているが、戦争の危機が起きた際に装備だけがあっても仕方がない。食料やエネルギーなども含めて、どうやって確保するのか、いわゆる兵站(へいたん)(ロジスティクス)の議論が足りていない。安全保障の議論が省庁ごとに、「たこつぼ化」しているように感じる。日本の安全保障には、総合性が欠けているということを強調したい。

(聞き手 浅上あゆみ)