メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.07.22

【数字は語る】進む円安と円買い介入の限界 金融緩和の手じまい議論を

週刊ダイヤモンド(2022年7月16・23日合併号)に掲載

国際金融

~0.87兆ドル~

米ドルと日本円の2019年4月における1日平均の為替取引量
出所:国際決済銀行(BIS)


日本銀行が6月上旬に公表した国内企業物価指数は、前年同月比で約9%の上昇となった。ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源価格高騰の影響もあるが、円安の影響も大きい。この状況下、米国と日本の金利差拡大が円ドルレートに影響を及ぼし、円安の圧力を高めているとの指摘が有識者の間で増えてきた。

米国と日本の金利差が拡大しているのは、米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のための金融引き締めで利上げを段階的に進めている一方、当分の間、日銀が金利を低位に据え置き、金融緩和を継続する姿勢を明らかにしているためである。

問題は今後急激な円安が進行した場合、日本政府が打つ政策手段が限られていることではないか。一つの手段は「円買い・ドル売り」の為替介入だが、筆者はその効果に少々疑問を持っている。

まず、円買い介入の原資は日本の外貨準備でその約1.3兆㌦が上限となるが、1日の為替取引量は膨大だ。例えば、国際決済銀行(BIS)は世界の為替取引量に関する調査結果を3年ごとに公表している。それによると、20194月の1日平均の取引量は6.6兆㌦(1㌦=110円で726兆円)にも達する。うち、主要通貨別の取引量やシェアの第1位は米ドルとユーロの取引で、取引量は1.6兆㌦(同176兆円)かつシェアは24%。また、第2位は米ドルと日本円の取引で、取引量は0.87兆㌦(同96兆円)かつシェアは13.2%だ。

この取引量に日本の円買い介入が影響を及ぼすには、数兆円以上の為替介入が必要だが、仮に10兆円規模なら、数回行えば、外貨準備が底を突いてしまう可能性がある。また、米国が日本の円買い介入に協調すれば効果も高まるが、現在の米国は自国のインフレ抑制に躍起になっており、物価高騰を加速する「ドル安」誘導政策に協調するとは思えない。

市場では1㌦=140円台の予測も出てきている。円安のメリットとデメリットを精査した上で、現在の金融緩和の手じまいの方策についても、内々検討を開始する必要があるのではないか。