メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.06.23

食料安保 コストは誰のため

日本経済新聞夕刊【十字路】2022年6月21日

農業・ゲノム

世界で食料危機が起きると、農業界にとって農業予算を増やすチャンスが到来する。今回もこれで麦や大豆などの生産を増やすという。

しかし、既に1970年以降、過剰となった米から麦や大豆などに転作して食料自給率を向上させるという名目で、膨大な国費を投入してきた。現在毎年約2300億円かけて作っている麦や大豆は130万トンにも満たない。同じ金で1年分の消費量に相当する小麦約700万トンを輸入できる。エサ米生産66万トンにかかる900億円超の財政負担で約350万トンのトウモロコシを輸入できる。

しかも、この生産を維持するためには、毎年同額の財政支出が必要である。仮に10年後に危機が発生するまで継続すると、32千億円の財政負担となる。これで6年分の小麦やトウモロコシを輸入できる。安い費用でより多くの食料を輸入・備蓄できる。どれだけ費用がかかってもアメリカ製よりも国産の戦闘機を購入すべきだという人はいないはずだ。

食料安全保障は、国民のためではなく農業界のために利用されてきた。世界の穀物生産が増大する中で、農政は食料安全保障を掲げながら、3000億円を超える減反補助金で主食である米の生産を減少させ、米価を上げてきた。麦や大豆への転作といっても、補助金をもらうため種をまくだけで収穫しないことも行われた。これらの結果が食料自給率の低下だ。

米が食料自給率の過半を占める。食料自給率の196079%から37%への低下は米の生産減少が主な原因だ。減反を廃止すれば、米を増産できるし減反補助金もなくなる。水田面積全てにカリフォルニアと同程度の収量の米を植えて生産を拡大し輸出すれば、食料自給率は70%に近づく。