食料危機が起きる場合は二つある。金がなくて買えない時か、金はあるが物がなくて買えない時だ。ロシアのウクライナ侵攻で小麦価格が高騰し、北アフリカの国などが混乱しているが、これは前者の例だ。日本は途上国並みの経済状態に陥らない限り、その心配はない。問題は物がなくなる時だ。
今、中国による台湾侵攻の可能性が指摘されている。もし台湾有事となれば、日本のシーレーン(海上交通路)は破壊され、輸入が止まる可能性がある。この時は国産品で賄うしかないが、ほぼ100%国産の穀物は米しかない。
実際にどうなるかは1945年の終戦直後を考えればいい。この年の米は大凶作だったうえ、外地から多くの人が帰国して食料需給が逼迫した。政府は大入1人1日2一3合(約345グラム)の米を配給しようとしたが遅配も起きた。米だけではカロリーが足りず、すいとんなどの代用食も食べた。
当時の人口約7200万人に対し、今は約1億2500万人。仮に当時の配給量を当てはめると、今なら年約1400万トンの米が必要となる。だが、2022年産米の生産見通しは675万トン。国民の半数は餓死する計算だ。
米の生産は60年代後半に年1400万トンを超えていた。半減したのは減反政策が原因だ。減反は米の生産を抑えて価格を維持する政策で、70年から本格的に始まった。18年度で廃止したと公表されたが、それは当時の安倍政権のごまかしだ。廃止したのは生産数量目標だけで、生産を減らせば補助金を出すという減反政策の本丸は依然残り、逆に強化されてきた。減反廃止なら作付面積は増え、米価は下がるはずだ。
減反は亡国の政策だ。戦前にも植民地産米が増えて、旧農林省が減反を提案したことがある。反対したのは旧陸軍省だった。「主食である米を減産するとは何ごとか」との理由だ。食料安全保障の本質とはそういうことだ。農林水産省は「自給率の引き上げが重要」などと言うが、実際に行ってきたのはまったく逆の政策だった。まずは減反を完全に廃止し、米の生産を増やすべきだ。そうすれば米の価格は下落し、輸出が行えるようになる。今までは生産制限のため、面積当たりの収量(単収)を増やす品種改良は禁じられてきたが、減反廃止による作付面積と単収の増加で年1500万トン程度の生産は可能になる。うち700万トンを国内で消費し、残る800万トンは輸出すればいい。有事で輸入が止まったら輸出していた米を食べればよい。輸出は倉庫代もかからない備畜の役割を果たす。
農地面積の拡大も必要だ。終戦直後は約600万ヘクタールあったが、宅地転用や耕作放棄で今や440万ヘクタールだ。もし輸入が止まれば石油もなくなり、肥料や農薬は生産できず、田植え機なども動かせない。単収は大幅に減るので現状の2倍以上の農地が必要となる。
国民は農政が何をしているか審査すべきだ。関心を持たなかった結果、日本の食料安全保障は危機的状況にある。
【間き手・宇田川恵】