ワーキングペーパー グローバルエコノミー 2022.04.08
本稿はワーキングペーパーです
近年、金融政策と格差の関係について、学問的にも実務的にも注目がなされている。伝統的には中央銀行は名目金利をコントロールすることで金融政策を行うが、その影響を受ける家計は年齢、性別、富、生産性、雇用形態など多くの側面で異質的である。そのため、名目金利の変化が家計ごとに異なる効果をもち、金融政策自体が経済の再分配的効果を持つ可能性がある。このような観点から、中央銀行は経済における格差の度合いを考慮して金融政策を運営すべきではないかという考え方もある。
すでに既存の研究では、金融政策が格差に与える影響について、多くの実証分析・理論分析が行われている。ここでもう一歩議論をすすめて、仮に不平等を中央銀行の任務のひとつとして加えた場合、このような金融政策運営はマクロ経済にどのような影響を及ぼすかを考えてみよう。
本稿では、金融資産所得と労働所得の両方で生計を立てる家計と金融資産を保有せず労働所得のみで生計を立てる家計の2種類がいるマクロ経済モデルを用いて、金融政策が2種類の家計間の所得格差(消費格差)を考慮しつつ金融政策を行うとどのような影響が出るかについて分析を行った。主たる結果は下記の2つである。
本稿のような2種類の家計がいるマクロ経済モデルでは、たとえ中央銀行が一般的に望ましいとされるテイラー原理というインフレに対する態度をとっていたとしても、均衡の非決定性というマクロ経済の不安定性が生じることが既存研究で明らかになっている。本稿では、中央銀行の格差を考慮した金融政策運営を行うことで、この均衡の非決定性を避けることができ、ある種のマクロ経済の安定性に寄与することを発見した。これは中央銀行が格差を考慮して金融政策運営を行うことのひとつの利点といえる。
本稿ではさらに、マクロ経済に対して様々な予期せぬショックが起きた際の分析も行った。その結果、金融緩和そのものはマクロ経済の格差を是正する方向で働くが、ショックの種類によっては中央銀行が格差を考慮して金融政策運営を行うことで、インフレあるいは景気のいずれかのショックに対する反応がむしろ大きくなってしまうことも明らかにした。これは、均衡の決定性とは別の観点である経済厚生からみると、必ずしも格差に反応する金融政策が必ずしも望ましいとはいえないかもしれないことを意味している。
ワーキング・ペーパー(22-006E)A benefit of monetary policy response to inequality