メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.03.17

ウクライナ危機と食料自給率

日本経済新聞夕刊【十字路】2022年3月9日に掲載

農業・ゲノム

ロシアのウクライナ侵攻で、両国からの小麦輸出が減少するおそれがある。また、原油価格が上がると、原油の代替品であるエタノールの原料であるトウモロコシの価格も上がるので、その代替品である小麦などの穀物価格に波及する。供給の減少と原油価格上昇の両面で、日本がアメリカなどから輸入している小麦の価格も上がる。

小麦の用途は裾野が広く、パン、ラーメンなどさまざまな食品の原料なので、家計が影響を受けるという指摘がある。しかし、今回と同様、2008年小麦の国際価格が23倍に上昇し、パンなどの価格も上がったとき、食料品全体の消費者物価指数は、2.6%上がっただけだった。

大きな理由は、小麦の輸入額は、日本全体の飲食料費支出の0.2%にすぎないことだ。我々が払う飲食料費の9割は、加工、流通、外食に帰属する。農産物への帰属はわずかで、特に小麦を含めた輸入農産物への支出は2%である。

さらに、原油と穀物のように、消費には代替性がある。我々は、パンやラーメンなどの小麦製品だけを食べているのではない。パンの値段が上がれば、その代替品である米の消費が増える。

余る牛乳をもっと飲もうという運動があるが、ほとんどの牛乳は輸入トウモロコシをエサとして作られるので、自給率は上がらない。パンやラーメンなどの原料はほぼ100%輸入小麦だ。讃岐うどんの原料もオーストラリア産小麦だ。

小麦の価格上昇は、食料自給率を向上させる。自給率が低下した理由の一つは、小麦に比べ米の価格を大幅に上げたからだ。

いま米の値段は低下している。この際、100%国産の米をもっと食べてはどうだろうか。