メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.01.06

食料自給率と食料安全保障を考える

NHKラジオ第1 三宅民夫のマイあさ!深よみ。(2021年12月31日放送)

農業・ゲノム

Q1:今年は小麦粉や大豆を使った豆腐、しょうゆなど、食品の値上げのニュースが多かったですね。どんな要因があったのでしょうか?

輸入される、小麦、トウモロコシなどの穀物や大豆の価格が上昇したことで、一部の食料品が値上げされました。

原因は、需要面では、中国で豚肉の生産が回復したため、エサ用の大豆などの需要が増加しています。供給面では、南北アメリカで収穫が減少しました。

もう一つの原因は、原油価格の回復です。トウモロコシからエタノールというガソリンの代替品が作られるようになりました。原油価格が上がってガソリン価格が上がると、エタノールの価格も上がります。そうなると、エタノールの原料であるトウモロコシの価格が上がり、その代替品である他の穀物価格に波及していきます。こうして、原油価格と穀物価格が似た動きをするようになってきました。


Q2:そして、昨年度の食料自給率がカロリー基準で37%の過去最低だったと発表されました。これは何を意味しているのでしょうか?

自給率低下の原因として、よく食生活の洋風化が挙げられます。米や魚を中心とした食生活から、パンや食肉、乳製品の比重が高い食生活に変化したからだというのです。

しかし、これは、農水省にとって不都合な真実を隠しています。農水省は、1960年以降、農家の所得向上を理由に、米の値段、米価を大幅に引き上げました。これで麦の生産が減少し、ほとんど輸入に頼るようになりました。米価の引き上げが、なぜ麦に影響したかというと、昔は6月に麦を収穫してから田植えをしていました。ところが米価が上がったので、コストの高い零細な農家も米作りを継続しました。この人たちは役場や工場などで働く兼業農家なので、まとまって休みをとれる5月のゴールデンウィークに田植えを行うようになり、麦の生産ができなくなりました。

消費にも影響しました。輸入主体の麦の価格は長期的に横ばいなのに、米価は1980年以降1960年の3~4倍の水準です。麦に比べて米の価格を上げたので、国産の米の需要が減って輸入の麦の需要が増えました。今では、600万トンの米を減産して、800万トンの小麦や大麦を輸入しています。

家計調査では、パンの支出金額が米を4割も上回っています。外国産の優遇政策をしたのですから、自給率低下は当然です。


Q3:食料自給率は、新型コロナで世界的な食料の供給体制に懸念が生じたことで注目された食料安全保障にも関わると思いますが、どのような問題があるのでしょうか?

食料危機には二つの場合があります。一つは、途上国の人のようにお金がなくて買えない場合です。しかし、2008年のように穀物価格が3倍に高騰して、途上国の人が買えなくなった時でも、日本が買えなくなることはありません。

もう一つは、台湾有事で日本周辺のシーレーンが破壊されるなどで、輸送が途絶して物理的に手に入らない場合です。このとき、エサを輸入に頼っている畜産はほぼ壊滅します。現在でも、貿易量の回復などで、国際的にコンテナ船が足りなくなっています。このため、酪農家が飼料として与える牧草の輸入が困難になっています。

政府は食料自給率を2030年度に45%にする目標を掲げています。これは農業保護を正当化するために考えられたものです。ところが、20年以上も引き上げる目標を掲げているのに、逆に下がる一方です。しかし、政府の誰も責任をとろうとはしません。

食料自給率は国内生産を消費で割ったもので、また、消費は国内生産と輸入の合計です。皆が飢えていた終戦直後の食料自給率は、輸入がない、つまり生産と消費が同じなので、自給率100%です。また、生産量が同じでも、昔に比べ、大量の食べ残しを出し、飽食の限りを尽くしている現在の食料消費を前提とすると、食料自給率は下がります。食料自給率は意味のない概念です。

大事なのは、ぜいたくな食生活を前提とした食料自給率ではなく、危機の時に生き残るために最低限必要となる食料を自給する能力、食料自給力です。


Q4:では、食料自給力のために、日本はこれから何をすべきでしょうか?

食料安全保障とは、海外から輸入できなくなったときに、どれだけ食料を生産して国民の生存を維持できるかという問題です。

そのために、最も必要なのは農地資源の確保です。この50年の間に、日本国民は、現在の水田面積240haより多い330haを、半分は宅地などへの転用、半分は耕作放棄でなくしています。今は440万haしかありません。

また、食料自給力を高めなければならないのに、農林水産省は、来年産米の適正生産量を675万トンとしました。1967年の1426万トンの半分以下、平成の米騒動と言われた1993年の大凶作783万トンさえ大きく下回ります。米価を高く維持するため、米の生産量をどんどん減らしているのです。

減反を止めて生産を増やし価格を下げると、米の輸出ができるようになります。小麦や牛肉が輸入できない食料危機の時には、輸出していた米を食べればよいのです。米価を維持するという農水省の政策は食料安全保障を損なっています。主食である米の生産量が700万トンを切る水準になったことは、国家にとって危機的な状況ではないでしょうか。