メディア掲載  グローバルエコノミー  2021.12.21

韓国、すでに日本を一人当たり購買力平価GDPで追い抜き…数年内に名目でも逆転か

小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

Business Journalに掲載(2021年12月14日付)

1990年以降、日本経済の低成長が恒常化し、格差が拡大しているのではないか」という認識が広がっている。本当に格差が拡大しているか否かは精緻な分析が必要だが、この象徴として最近話題となったのが「一人当たりGDPで日本は韓国に抜かれた」という情報だ。「日本のほうが先進国なので韓国に追い抜かれたというのは間違いだ」といった情報もあり、どちらが真実なのか判断がつかない人々も多いと思われる。

そこで、今回は、中国・日本・韓国・アメリカに関するIMFデータを概観することにより、論争の真偽を明らかにしてみたい。

まず、購買力平価での一人当たりGDPの推移を確認してみよう。購買力平価とはある国で購入する財・サービスの価格が別の国で購入する場合にいくらの金額になるかの比率を示す。通常の為替レートは外国為替市場で取引される異なる国との間の通貨の交換比率を表すが、購買力平価は異なる国との間の財・サービス価格の交換比率を表す為替レートである。各国の為替レート(対ドルレート)の代わりに、この購買力平価を利用して対ドル換算したものが「一人当たり購買力平価GDP」であるが、この推移が以下の図表1となる。

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(出所)IMFデータから筆者作成

このデータ(一人当たり購買力平価GDP)の推移を眺めてみると、確かに日本の一人当たり購買力平価GDPは韓国に2019年に追い抜かれている。なお、2000年から2018年において、一人当たり購買力平価GDPの成長率は、中国が9.4%、日本が2.3%、韓国が5.3%、アメリカが3%となっている。

2021年以降においても4カ国の一人当たり購買力平価GDPがこの成長率で伸びていくなら、中国が日本を追い越すのは2037年、中国がアメリカを追い越すのは2045年となることも簡単な計算で確認できる。仮に中国の一人当たり購買力平価GDPがアメリカ並みの水準になれば、日本の安全保障にも大きな影響を及ぼすのは確実で、注意が必要だろう。

通常の為替レートでの一人当たりGDPの推移

では、通常の為替レートでの一人当たりGDPの推移はどうか。まず、通常の為替レートで対ドル換算した一人当たり名目GDPの推移が、以下の図表2である。

fig02.png

(出所)IMFデータから筆者作成

こちらのデータ(一人当たり名目GDP)の推移を眺めてみると、韓国の一人当たり名目GDPは現時点ではまだ日本を追い抜いていない。しかしながら、2000年から2018年における一人当たり名目GDP成長率は、中国が12.9%、日本が0.7%、韓国が5.7%、アメリカが3%であり、日本が最も低い。

すなわち、「一人当たり購買力平価GDP」では2019年に日本は韓国に追い抜かれているが、名目ではまだ日本の水準が韓国を上回っている。だが、2000年から2018年の成長率で伸びていくなら、2030年に韓国は日本を追い抜いてしまう可能性がある。2030年は、いまから10年もない。

なお、2021年以降においても4カ国の一人当たり名目GDP2000年から2018年の成長率で伸びていくなら、中国が日本を追い越すのは2036年、アメリカを追い越すのは2044年となるという計算になる。

もっとも、いま中国経済は減速し始めており、本当に中国の一人当たりGDPが日本やアメリカを追い抜くかはまだわからない。しかしながら、中国の一人当たりGDP成長率のほうが日本よりも高い状態が続くなら、いずれ追い越される可能性があることも否定できない。

いま岸田政権は「成長と分配の好循環」を掲げているが、格差是正や分配のためだけでなく、安全保障の観点を含め、潜在的な経済成長率の引き上げが必要となっている。低金利を利用した国債発行の増発や、日銀の大規模緩和による金利抑圧も未来永劫できるとは限らず、財政や金融政策のみでの分配がいずれ行き詰まるのは明らかだ。

経済成長の底上げには、企業の競争力を高める政府の環境整備が最も重要であり、痛みを伴う構造改革(例:徹底的な規制緩和)や政府予算における思い切った資源配分の見直しを断行する必要があろう。