0.021%㌽
2018年度から40年度における薬剤費(対GDP)の年間平均の増加分
*厚生労働省資料および「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」(2018年5月21日/内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省)を基に筆者試算
成長と分配の好循環」を促すため岸田首相は「新しい資本主義実現会議」を立ち上げたが、分配の原資捻出には成長が不可欠で、低成長の解決には資源配分の見直しも必要だ。
政策では必ず予算が必要だが、現下の厳しい財政事情の中、この実行には財政中立で予算に関する資源配分の見直しも求められる。
一つのヒントとして、新時代戦略研究所(INES)が今年5月に提言した薬価制度改革案を紹介しよう。改革の柱は主に二つある。
第一はマクロ的アプローチ(薬剤費マクロ経済スライドの導入〈1〉)で、中長期的な経済成長率に沿うよう、公的医療保険で収載する薬剤費総額を伸ばす改革だ。医療費(約45兆円)のうち薬剤費は約10兆円なので、潜在的な成長率が仮に1%なら、10年間で薬剤費を約1兆円も増やせる。
ただ、薬剤費が経済成長率以上に伸びるリスクもある。政府が2018年に公表した社会保障給付の将来予測では、18年度に約7%の医療費(対GDP)は40年度に9%弱になる。医療費に占める薬剤費の割合は約21%なので、薬剤費(同)は約20年間で0.42%㌽(年間平均で0.021%㌽)増加する予測だ。薬剤費には①革新的な新薬群、②基礎的医薬品、③成熟品群があるが、(1)はこの増加分を③の薬価を若干刈り込み、薬剤費の伸びを潜在的な成長率の範囲に収める役割も担う。
第二はミクロ的アプローチだ。現行の薬価制度には、予想を大きく上回って年間売上高が増加すると薬価を引き下げる「市場拡大再算定(2)」などがある。これは巨額の開発投資を行い、革新的な新薬を開発しても投資コストの回収に大きな不確実性が伴うという批判が製薬会社からある。現状では(1)が存在せず、予算統制的に(2)が必要だが、(1)があれば(2)は不要だ。なので、(1)の導入とセットで(2)を廃止するのが第二の改革の柱の一つだ。
INES提言は、薬剤費をコストでなく投資と見なし、財政的な制約も考慮しつつ、より高い成長が見込める領域に資源配分を促すのが改革の目的で、「成長と分配の好循環」の深い議論を期待する。