~5.7兆円~
2019年度における金融所得課税の税収(株式等の配当分+株式譲渡益分)
出所:財務省
衆議院選挙が終わったが、再分配機能の強化には経済成長の引き上げと再分配の財源確保が必要だ。岸田文雄首相は当初、金融所得課税の見直しで再分配の強化を行うつもりであったことが窺い知れるが、10月上旬に「岸田ショック」と呼ばれる株安が発生して発言を控えるようになった。しかしこの株安は、国内の金融機関による季節的な売却が主因であったことが判明している。では、岸田政権が金融所得課税の見直しを行う理由は何か。
それは所得税における「1億円の壁」の是正だ。年収は給与所得と金融所得の二つから構成される。このうち、給与所得が多い年収が5000万円から1億円の層の所得税負担率は30%程度だが、年収が1億円を超えると、給与所得よりも金融所得の割合が大幅に増加し、所得税負担率が20%程度に低下する。この裕福層に有利な状況を、是正しようというわけだ。
2019年度の金融所得課税の税収のうち、株式等の配当分は約5兆円、株式譲渡益分は約0.7兆円。金融所得課税の税率を10%引き上げれば約3兆円税収増となり、再分配に利用できるはずだ。
だが金融所得課税の強化を行えば、当然、裕福層のマネーが海外に逃避するリスクもある。
筆者は、この一つのヒントになるのは14年の証券税制改革だと思う。これは、13年度の税制改正大綱で決まったもので、NISAの拡充とセットで上場株式の配当や譲渡益等の税率などが見直された。これにより14年1月1日から上場株式の配当や譲渡益等の税率が
10%から20%に変更され、かなりの増税となったが、その後の株式市場への影響はどうであったか。
税率引き上げ前の13年12月1日終値で、日経平均株価は1万6291.31円だったが、14年1月1日は1万4914.53円。確かに、株価は一時的に影響を受けたが、日銀の異次元緩和の影響もあり、その後の株価は上昇、現在は2万9000円前後で推移している。
これを踏まえれば、金融所得課税の強化を行ったから直ちに株式市場が暴落するというのは暴論であり、冷静な議論を行う必要があると思われる。