メディア掲載  グローバルエコノミー  2021.12.01

長期的な視点の林業再生策を

日本経済新聞夕刊【十字路】2021年9月16日に掲載

日本の林業の再生には長期的な視点が不可欠

米国の住宅需要の増加でウッドショックと言われる木材価格の上昇が起きている。前年同期比で日本の製材輸入量は今年7月まで16%減少、価格は723割程度(乾燥材は2倍に)上昇している。

価格が上昇すると市場は供給量を増やす。それ以上に人為的に国産材の生産を増やせば、経済にひずみが生じる。特に木材の生産には50年以上を要する。短期的に供給を増やすと将来の供給に必要な森林資源が減少しかねない。

山元の立木は伐採されてから、丸太、製材品と形を変える。林野庁は丸太価格から伐採コストを引いたものが山林経営者の立木価格だと理解し、伐採機械に補助を行い、伐採コストを下げて立木価格を引き上げれば、再造林が可能になると考えた。しかし、これで丸太の供給が増加したので、その価格はピーク時に比べスギは3分の1、ヒノキは4分の1に下がった。林野庁の意図に反し、立木価格はそれ以上に低下した。今や立木価格は製品価格の1割程度、丸太価格に占める割合は1980年代に6割もあったのに2割に過ぎない。

7割近い高額の造林補助金があっても、伐採後再造林される林地は3割だけだ。つまり林野庁の政策が伐採される林地を増加させ、丸太供給の増加を通じた立木価格の低下によって、伐採後の林地の多くが、高率の造林補助金があっても再造林されず放置されている。将来の国民のための森林資源は減少している。

ある国からの輸入が一時的に減少したとしても、国内生産の増加だけが解決策ではない。他の国からの供給拡大も検討すべきだ。終戦直後の復興のように、緊急にたくさんの住宅を建設しなければならないという事情にもない。ウッドショックという言葉に惑わされない、長期的な視点に立った政策が必要だ。