メディア掲載  グローバルエコノミー  2021.11.30

稲作はSDGsに向く

日本経済新聞夕刊【十字路】2021年4月15日に掲載

国連"持続可能な開発目標"SDGs)は2番目に、飢餓に終止符、食料の安定確保と栄養状態の改善、持続可能な農業を挙げている。

生命維持に必要なカロリーを供給する穀物の生産は、米を作る水田農業と小麦やトウモロコシなどを生産する畑作農業に分かれる。

世界の畑作農業は持続性に問題がある。植物が水を吸収するための保水性と呼吸するための通気性という構造を持つ、表面から深さ30センチメートル以内にある表土は、有機物や微生物によって長期間かけて作られたものである。この表土が大型機械で掘り起こされたりして流出している。かんがい地域の一部では、地下水枯渇、水による毛細管現象で土中の塩分が表土に堆積する塩害が生じている。過剰な取水などでアラル海は死の海となった。

アジアモンスーン地域の水田は、これらを上手に解決してきた。水田は水の働きによって森林からの養分を導入し、病原菌や塩分を洗い流すことによって塩害や窒素などの地下水への流出を防ぐ。つまり「水に流し」てきたのだ。水田は雨水を止め表土を水で覆うことによって、雨風による土壌流出を防ぐ。中国の長江流域で7千年もの間、米作が、連作障害もなく、毎年継続してきたのは水田の力だ。

これはアジア以外、特に欧米人には知られていない。あるセミナーで、カナダの農家が水田で米を作るのはモノカルチャーなので環境のために輪作すべきだと発言したのには驚いた。

アジアモンスーン地域の水田による米作こそ、世界最高の"持続的農業"だ。日本政府は、これを世界に発信すべきなのに、減反政策によって持続性の高い水田の米農業を圧迫し、小麦などの輸入を通じてアメリカ等の持続性には問題がある畑作農業を振興している。