ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2021.10.13

ワーキング・ペーパー(21-007E)Corporate debt and state-dependent effects of fiscal policy

本稿はワーキングペーパーです

経済政策

景気後退期に企業の債務問題が深刻化することが多い。過剰債務は利払い負担を増加させ、新たな借入を困難にする。その結果、企業部門の生産が停滞し景気の落ち込みが深くなる。日本では古くから景気対策として財政政策が実施されてきたが、リーマンショック以降、欧米諸国においても財政政策は景気対策の手段の一つとなり、こうした債務問題の対処を目的としても財政政策は実施される。

本研究の目的は、企業が過剰債務を負っているときに、法人税減税と歳出拡大政策の有効性を景気循環モデルを用いて理論的に検討することである。企業の債務水準の多寡や、債務問題が一時的か恒常的かによって、財政政策の有効性が変化するかを考察する。財政政策の有効性は、特に、政策を実施しないときと比べて、債務返済が促進されるか、GDPや社会的厚生に対して正の影響があるかを分析する。

本研究の特徴の一つが、財政政策と企業の資本構成(負債比率)を明示的に考慮している点である。会計上、企業は負債の利払いを費用計上することができ、その分、法人税が控除される。一方、配当支払いは法人税から控除されない。このように法人税は負債による資金調達に対して税制上の優遇があることが知られている。法人税率が高いと、税制上の優遇が大きくなり企業は負債による資金調達を増やす。通常、法人税減税は企業に対する税負担の軽減を通じた景気刺激を目的として実施されるが、債務問題を考察するに当たって、以上のような企業の資本構成と財政政策の関係を明示的に捉えることが必要である。

分析の結果、債務問題が一時的なときには、法人減税が望ましいことがわかった。債務水準がそれほど大きくなく、債務問題が一時的なときには、企業の債務水準が大きいほど、法人税減税によるGDPや社会的厚生に対する乗数効果が大きくなる。債務負担が重いほど、減税によって債務返済が促されることで社会的厚生の改善効果が大きくなる。一方、歳出拡大政策は債務水準の多寡による変化はほとんどなく、クラウディングアウト効果によって利息が上昇し、債務問題を悪化させ社会的厚生も改善しない。

一方、債務水準が大き過ぎて永続的に減らず、債務問題が恒常的なときには、恒常的な歳出拡大政策が債務返済や社会的厚生の改善に有効である。恒常的な歳出拡大政策が企業の最適資本構成を変化させる結果、企業は債務返済を進めることが最適となり得る。こうした政策が有効であるためには、1)恒常的な債務問題に直面している企業数が一定水準以下、2)法人税率が高くないといった条件を満たしていることが必要である。

以上のように、財政政策は企業の資本構成の変化を通じて実体経済に影響を及ぼすことが分かった。政策当局は、債務問題が一時的か永続的かによって、採るべき政策が異なる点にも留意が必要となる。

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ワーキング・ペーパー(21-007E)Corporate debt and state-dependent effects of fiscal policy