メディア掲載  グローバルエコノミー  2021.09.09

農家にも消費者にも打撃 視標「コメ先物市場廃止」

共同通信 2021年8月14日配信

農業・ゲノム

コメ先物市場の廃止が決まった。自由な価格形成の手段がまた一つ失われたことは、消費者にとって打撃であり、生産者の利益にもならない。農林水産省は高い米価を維持したいJA農協と、これを支持団体とする自民党農林族に敗北した。

先物市場が定着し、農協の価格統制力が弱まれば、米価は下落する公算が大きい。米価に一定割合を乗じて決まる農協の販売手数料も減少する。だが、国内の人口減少が続く中、日本の稲作が生き残るには、輸出を増やすしかない。それには価格引き下げが不可欠だ。この場合の生産者対策としては、欧州連合(EU)のような財政による直接支払いがある。

2005年にコメ先物の試験上場が申請された際、自民党農林族はこれを認めなかった。民主党政権になった11年にやっと期限付きの試験上場が認可された。以来自民党政権下で4回も期限が到来したが、取引低迷を理由に、本上場への移行は見送られてきた。

今回は最後のチャンスとされた。農水省は本上場を認めることに反対ではなかったと報道されている。しかし、衆院選が迫る中、農協の意向を受けた自民党農林族は反対した。

今回、農協や自民党は、主食であるコメを投機の対象としてはならないと主張した。しかし、先物市場の由来や現状を考えると根拠は弱い。

世界で初めての先物市場は、1730年に開設された大坂・堂島のコメ市場だ。この自由な市場は、日本が戦時統制経済に移行した1939年に閉鎖された。現在と比較にならないほどコメが重要だった時代に、200年の長きにわたりコメの先物市場は日本経済の中心だった。農協の主張を認めるなら、今ではコメより重要な原油や通貨の先物取引は廃止すべきだ。

先物取引は、生産者にとって将来の価格変動リスクを回避し経営を安定させる手段である。1俵(60キロ)1万5千円で売る先物契約をすれば、豊作や消費の減少で収穫時の価格が1万円となっても、1万5千円の収入を得ることができる。

逆に価格が上がることも当然あり得るが、先物を利用すれば、卸売業者は上昇前の価格で調達できるため、値上げを避けられる。先物取引では、投機家がリスクを負担することで、生産者や需要者は価格変動リスクを回避できる。

農水省は取引量が少ないから認めないとしたが、コメの流通量の過半を握る農協がボイコットしている以上、取引量は増えない。だが、中国・大連のコメ先物市場は、2年前に開設され取引量は日本の50倍だ。潜在的な需要はあるとみるべきだ。

自民党は、コメの現物市場の創設を農水省に申し入れた。しかし、これは2011年まで存在していた。05年に全農あきた(秋田市)が、この公的な入札制度を利用し、子会社を使った架空取引で米価を高く操作した。この後農協は米価をより確実に維持するため、卸売業者との相対取引に移行し、利用が激減した現物市場は廃止された。

需要と供給を価格に反映させるという市場本来の役割を受け入れない限り、現物市場が機能することもないだろう。