メディア掲載  エネルギー・環境  2021.08.30

地球温暖化対策に先行する水環境の順応性管理

一般社団法人 産業環境管理協会 月刊「環境管理」 Vol.57 No.8 (2021) に掲載

法制度・ガバナンス エネルギー・環境

環境問題の対策にはその原因を突き止めて規制を進めることが有効であるが、原因が複雑に絡み合う場合には予想外の不利益を生じることがある。例えば、汚濁が進んでいた瀬戸内海では、工場や家庭からの排水規制により水質が大きく改善したと同時に、漁獲量が低下してしまった可能性があるという。この現状に対して、政府は海の水質と生態系の両方を観測しながらバランスをとっていく「順応性管理」を採用した。地球温暖化問題に対しても、CO2 排出規制のみに目を向けずに経済開発や安全保障などとのバランスをみて目標を見直す柔軟な対策が必要である。

はじめに

2021年6月3日、「瀬戸内海環境保全特別措置法(2015年に最終改正)の一部を改正する法律案」が国会で可決された。新しい法案では、高度経済成長期以降進めてきた工場や家庭からの汚濁物質(生物にとっては栄養物質)の排水などの規制を緩めて、海洋生物の維持のために必要な栄養分を一定程度供給していくという。「水質保全一辺倒(きれいな海)」であった海の管理目標が「水質と水産資源のバランス(きれいで豊かな海)」に移行したということである。

一見当たり前のことに思うかもしれないが、このことは瀬戸内海の水産業にとってきわめて大きな意味をもつ 。
規制中心の従来の考え方に「ほどよい汚れは魚の栄養になる」という新たな思考が加わったからである。瀬戸内海だけでなく、東京湾と伊勢湾についても同様に一定程度の汚れを認めていく方針となり、水質汚濁防止法に基づく基本方針の改定が予定されている。

この法改正の経緯と意義について、大学や研究所の専門家に聞き取りを行ったところ、科学的知見の不確実性が払拭できない中で現場管理者を含めた様々な利害関係者(ステークホルダー)が可能な限り損をしない形を見出した結果であることがわかってきた。

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地球温暖化対策に先行する水環境の順応性管理