はじめに
中国がらみの安全保障問題というと、日中関係の文脈では尖閣諸島の話がすぐに思い浮かぶ。しかし、じつは経済的な問題、とくにインバウンド需要も、日本の対中脆弱性を著しく高める安全保障上の課題だ。
外国人観光客を対象としたインバウンド需要の活性化や、外国人労働者の受け入れ拡大が象徴する通り、中国を主とした他国への人的依存が急速に深まるようになってきた。また、2020年に入ってからの新型コロナウイルス感染拡大は、観光業界を主に、中国人観光客の来日を見込んだインバウンド需要が、非常事態や有事に際して最初に商業的な打撃を受けることを露呈させた。
以下で論じるように、第2次安倍政権下で進行した日本の経済および社会面での中国を含めた他国への人的依存は、日本の中国に対する脆弱性を事実上高めることにつながった。インバウンド需要がその代表例だが、日中関係の安定を前提とする政策は、両国関係が悪化した際に、中国側の潜在的な外交圧力手段を強化する副作用を生み出した。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本は中国による経済的な圧力を疑似的に体験しているといえる。後述のように、新型コロナウイルスは、もし中国が日本への人流を恣意的に停止した場合の経済や社会面での打撃を再現しており、実際にそのようなシナリオが現実化する可能性についての教訓をもたらしているのだ。
第2次安倍政権下の日中関係と経済安全保障の浮上
日本の一部には、経済的な相互依存や協力を深めれば日中関係は良くなるという考えが以前から根強く存在してきた【注1】。だが、そのような通念が正確であるとはいいがたい。なぜならば、経済的な関係性が深まってきたのと同時に、尖閣諸島や歴史認識問題などのために日中関係が冷却化してきた経緯があるからだ。もし日中間での経済的な相互依存が両国関係を安定させるのであれば、そもそも外交や軍事面での対立は緩和されるはずである。こうした現実を前に、近年では日中間での貿易や投資分野などにおける相互依存が両国関係の安定に必ずしも直結しないことが指摘されている【注2】。
安倍政権の対中政策を簡潔に振り返ると、2012年の政権発足当初、日中関係は最悪ともいえる状態にあり、同政権は対中関係の立て直しという難題に迫られていた。その状況下、2014年11月の日中間での4項目合意【注3】ならびにその直後の首脳会談は関係改善に向けての第一歩となる。また、2017年6月の安倍首相による「一帯一路」構想への協力の意思表明は、経済分野を軸とした日中関係の改善を後押しするきっかけとなった。
その一方、中国による海洋進出や尖閣諸島問題もあって、日本は米国やその他の国々との連携を通じて中国の軍事活動を抑制するための政策も実施してきた。経済面では相互の協力を進展させつつも、安全保障面では競合するという日中関係の2つの側面が明確になったのである【注4】。
このように中国と向き合うアプローチの産物として、安倍政権時代には経済安全保障が大きく注目されるようになった。その象徴は、米中対立の先鋭化に伴って知られるようになった、「経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する」ためのエコノミック・ステイトクラフト(economic statecraft)と呼ばれる対外政策だ【注5】。
とりわけ、中国が他国の企業や研究機関から最先端技術を盗み出すだけではなく、それらの組織への研究資金の提供や人材の引き抜きなどの手段によって自国の優位性を高めようとしてきたことから、米中対立の経済安全保障面におけるキーワードとしてエコノミック・ステイトクラフトの概念が知られるようになった。
米国と同盟関係にある日本の場合、安全保障分野に関わる情報や技術を中国が組織的に窃取するだけではなく、同国の資本等による自衛隊や在日米軍基地近辺の不動産取得への警戒心から、中国によるエコノミック・ステイトクラフトが経済安全保障上対処すべき問題として浮かび上がった【注6】。
既述の通り、日本では第2次安倍政権時代に経済安全保障の重要性が幅広く認識されるようになった一方、中国においても、それと同じ時期に同様の動きがみられた。すなわち、習近平政権も、経済安全保障(「経済安全」)を国家安全保障政策の一環として重視し始め、経済成長、社会の安定性、食糧安全保障、金融、貿易など経済分野にまつわる多種多様の問題を中国の安全保障上の課題として取り上げるようになったのだ【注7】。
中国の対外的な影響力としてのアウトバウンド需要
ちょうど第2次安倍政権と重なる時期(2012年~2020年)から、中国が経済分野での自らの影響力を他国政府に対して行使する事例が散見されるようになる。とくに、他国との間で外交問題が生じた際や自国の安全保障が脅かされたと感知した際などに、中国が当該国に対して経済的な圧力をかける行動に出ることが、2010年代前半になってから広く関心を集めるようになった【注8】。
ここで焦点を当てたいのが、他国との間で外交的な軋轢が生じた際、中国人観光客を対象としたインバウンド需要を当てにするその相手国に対して、中国政府が意図的に自国民の渡航を止める対抗措置に出るようになったことである。
2012年、観光客の送り出し側としての中国のアウトバンド需要市場は、金額および人数の両方で米国とドイツを抜いて最大となり、その後も海外に旅行目的で渡航する中国人観光客は増え続けた。また、習近平は、自国民の海外旅行を推奨する姿勢を強く打ち出すようになった初の中国の最高指導者であり、習自らが推進してきた「一帯一路」構想の関係諸国を訪れる中国人旅行客の数も増大してきた【注9】。2013年4月のボアオ・アジア・フォーラムでの基調講演において、習近平が今後5年で中国から海外に赴く観光客の数が4億人を超える可能性に触れていたように【注10】、少なくともこの当時から、中国が自国のアウトバウンド需要の将来的な伸長を予期していたことが分かる。
中国の巨大なアウトバウンド需要は、同国にとってただ単に経済的な意味合いをもつだけではなく、自らのエコノミック・ステイトクラフトの方策として活用できる資源でもある。中国人が海外旅行先として訪れることができる訪問地は、中国政府との交渉を経て合意に至った観光目的対象(ADS)と呼ばれる他国や地域に限定されている。ADSを渡航先として取り扱う旅行会社は当局の管理下に置かれていることから、中国政府が自国民の海外旅行の状況を監視することも理論上不可能ではない。
また、中国は、ADSの地位を欲する相手国との交渉において、自国の戦略的な目標を達することを重んじてきた。ADSの地位の取り下げやADSの締結を呼びかけるといった硬軟の姿勢を使い分けることにより、中国が自国のアウトバウンド需要を他国に対する懐柔あるいは脅迫の手段として用いることが可能となる構造が築かれてきた【注11】。
実際に、2010年代になると、自国の意向にそぐわない政策を実施する他国への自国民の渡航を躊躇させる雰囲気を国内で醸し出すことによって、インバウンド需要を欲する相手国を中国政府が罰するかのような出来事が起きるようになった。たとえば、日本、韓国、台湾、フィリピン、豪州との関係で不満を抱いた際、中国当局が旅行目的での渡航を実質的に制限する措置を国内でとると、それらの目的地への中国人観光客や航空会社の渡航便の数が減る傾向が際立つようになった。
中国当局は、国内の旅行会社に対し、それらの渡航先に観光客を訪問させないように先導しただけではなく、自国民向けには渡航先の危険性に関する情報伝達や愛国心に訴えかけるといった方法を使い、団体および個人での海外旅行を実質的に制限する措置を実行したのであった【12】。
このように、日本は、すでに中国人観光客の事実上の渡航制限によって、インバウンド需要が落ち込む経験をしている。2012年9月に当時の日本政府が尖閣諸島の購入を決定した後、中国当局は日本への旅行を自国民に自粛させることを促すかのような対応を見せた。実際に中国から日本への観光客が一時的に減少している【注13】。
中国がもっとも露骨な圧力をかけたといえる事例が韓国である。2016年7月に韓国政府が在韓米軍へのターミナル段階高高度地域防衛システム(THAAD)の配備を決定すると、中国は報復措置を外交および経済の分野で実施した。その格好の標的となったのが、韓国のインバウンド観光政策関連の分野であった。
2016年に訪韓した外国人観光客の中で、中国人は最多の47%であり、免税店での消費額も中国人観光客によるものが70%を占めていた。中国当局が自国民の韓国への旅行などを事実上規制するかのような措置を国内で行うと、実際に韓国を訪れる中国人観光客は激減した。中国人観光客激減の影響は韓国の観光業界だけではなく、その関連業界へも広がり、150億米国ドル以上(為替レートにもよるが日本円にして1兆円を優に超える額)もの経済的損失に加え、失業者数は40万人にも上ったとの試算もなされた程であった【注14】。以上の通り、中国に依存したインバウンド政策を推し進めてきた韓国の観光業界は、THAAD問題後に非常に大きな経済的な損害を受けた。
この韓国の事例が示すように、2010年代以降、中国が他国に対して経済的な圧力をかける事例が目立つようになった。中国人観光客による活発な消費活動を期待する他国のインバウンド需要につけ込むかのようなかたちで、中国側は自国のアウトバウンド需要をエコノミック・ステイトクラフトの一部として戦術的に利用するようになったのだ。
THAAD配備決定後に中国が韓国に対していかなる対応をとったのかを分析した米連邦議会の米中経済安全保障再検討委員会による報告書は、興味深い点を指摘している。それは、今後も中国が韓国に対して行ったものと同様の経済的な圧力を他国に対してかける可能性である【注15】。そして、そのような措置は、中国と経済的な結びつきが深いアジア太平洋地域の国に対してなされることになろうと示唆している【注16】。
インバウンド需要を中心とした対中人的依存を深めた日本
先述の通り、2012年に日本政府が尖閣諸島の3島を購入すると、その翌2013年の訪日中国人観光客の数は一時的に減る。だが、2014年以降は右肩上がりで増加していき、2019年にはその数が900万人を超え、じつに1000万人近くにまで達した。また、この頃には、日本を訪れる中国人観光客による「爆買い」で知られる旺盛な消費行動がメディアなどを通じて注目を集めるようになったことも記憶に新しい。
日本国内での旅行消費額においても、2019年に訪日客全体のおよそ37%にあたる1兆7718億円と、国別でもっとも高い数値を記録しているように、日本のインバウンド需要の中で中国人観光客が占める存在感は、その数および消費額のいずれの面においても最大の規模を誇るようになった【注17】。
2003年から2019年までの訪日中国人客数の推移
出典)「訪日中国人、この12年で10倍増 : 2019年の旅行消費額は1兆7700億円に」『Nippon.com』(2020年1月28日):https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00646/(2021年2月16日閲覧可)。
第2次安倍政権下では、インバウンド需要に加え、中国の人的な資源に頼るという日本社会の仕組みも明確化した。たとえば、外国人留学生については、2020年5月の時点で中国がおよそ12万人と最多であり、6万人台である2位のヴェトナムを大きく引き離している【注18】[18]。それだけではなく、外国人技能実習制度では国別でもっとも多いのはヴェトナム人(約22万人)であるが、その次に多いのは中国人(約7万人)であり【注19】[19]、特定技能の外国人労働者についても、ヴェトナム人(約9000人)に次いで、やはり中国人が2番目(約1500人)に多い【注20】。
当然ながら、中国側も外国人観光客や労働者への人的依存を深める日本社会の情勢を注視している。たとえば、中国共産党の機関紙『人民日報』の2021年1月のある記事は、少子高齢化の加速や産業の空洞化に対する不安が高まる最中、日本がインバウンド需要の喚起や外国人労働者の受け入れ拡大といった政策を実施している現状について報じている【注21】。
次項で論じるように、第2次安倍政権下で加速した中国も含めた他国への人的依存を深めてきた日本社会の課題は、新型コロナウイルスという未曽有の危機と共に表出することになる。
中国の日本に対する疑似的な経済的圧力としての新型コロナウイルス
2020年になってから新型コロナウイルス感染拡大に見舞われた日本の経済状況は、他国と同様に急速に悪化した。とくに深刻な影響を受けたのは、海外からの訪日旅行客を対象とするインバウンド需要に活路を見出してきた観光産業であり、そこに連なる宿泊、小売、飲食、運送業など多岐にわたる業種が打撃を受けた。新型コロナウイルスは、日本経済の幅広い領域にその余波を及ぼしたが、日本政府の観光政策の在り方の見直しが急務であることが如じつになった【注22】。また、中国などからの外国人技能実習生が入国できない状況が続いた農業や製造、介護などの現場が人手不足に陥ったとの報道も相次いだ。
これらを通じて浮かび上がるのは、中国との関係が良好であることを無意識の前提としながら、日本が経済や社会の仕組みを作ってきたという事実である。つまり、尖閣諸島問題や台湾海峡、または南シナ海における米中対立が原因となって日本が武力紛争に巻き込まれる恐れに加えて【注23】、中国がその経済的な影響力を行使して日本を圧迫する措置をとる可能性も皆無ではないにもかかわらず、中国から日本への人流が続くことを自明の理としてきたのだ。
この先、日中関係が安定的に推移し続けるという保証はない。インバウンド需要のような日本の中国への人的依存の深化は、これからの日中関係の展開を想定した場合、致命的な欠点となるかもしれない。なぜならば、このような人の流れは、日中間で外交的な問題が起きた際に、中国当局側の意思によって止めることができうるからである。このシナリオについては、既述のように、近年の中韓関係の前例からしても十分に起こりうる。
はたして、日本はそのような中国による経済的な圧力というシナリオを真剣に検討してきたのであろうか。
新型コロナウイルスの教訓:予期せぬリスクにも対応できる戦略を
第2次安倍政権下では、たしかに安全保障や外交面では中国に対抗する体制の整備が進められた。しかし、日本社会や経済の構造に関しては、中国に依存するという側面が顕著になった。もし新型コロナウイルスの感染が収束した後もインバウンド需要を期待した観光政策を再開すれば、日本の中国に対する脆弱性はより一層深刻化することになるだろう【注24】。
コロナ禍の現在の日本は、ある意味では、疑似的に中国によるエコノミック・ステイトクラフトを体験している。もし日中間での何かしらの外交問題が起因となり、中国が日本への中国人観光客の訪日に制限をかけるような対応に出れば、インバウンド需要に頼る国内企業や労働者に当然ながら経済的な悪影響が及ぶことになる。それだけではなく、技能実習生など中国人労働者の日本への来航も制限すれば、日本の農業や製造業などの生産体制の根幹が揺らぐことになりかねない。コロナ禍は、中国が自らのアウトバンド需要を政治的な影響力として日本に対して行使した場合の状況のシミュレーションともいえる。
さらに留意すべきなのは、他国が経済面で自国に依存するように作為的に誘導する意図を中国側が隠さなくなっていることである。2020年10月に公表された同年4月の中国共産党中央財経委員会における演説の中で、習近平国家主席は、国際的な供給網の対中国依存を深めるようにさせることと同時に、他国が中国に対する供給を人為的に絶った際の強力な反撃や威嚇の能力を有する必要性を説いたとされている【注25】。この発言は、主に国際的な供給網を指していると思われるものの、現在の中国は、その強大な経済力を外交や安全保障面での影響力に転化させる意図を露わにするようになっている。
2021年2月に中国海警法が施行されて中国の海洋進出に対する懸念が一段と高まる中、尖閣諸島をめぐる情勢が緊迫感を増しつつある。それに加え、米中対立も熾烈化しており、日本と米国は中国を牽制する狙いから同盟関係をより緊密にさせる方策をとり続けていくことになると予想される。だが、THAAD配備をめぐる韓国の事例が象徴する通り、日本の対中政策あるいは日米間での動きが中国側を刺激すれば、中国が日本に対して経済的な圧力をかける事態が生じる可能性は否定できない。
また、仮に新型コロナウイルスが収束してから日本が中国人観光客を目当てにしたインバウンド政策を復活させれば、当然ながら、中国人観光客の訪日を停止するという措置は、中国側の有力な外交カードとして引き続きその手元に残ることとなる【注26】。
経済安全保障という視野に立てば、インバウンド需要への過度な傾斜は、日本の中国に対する脆弱性を高める一方、反対に中国の日本に対する潜在的な影響力を向上させる。新型コロナウイルスが、中国に巨大な力をもたらす構造を浮き彫りにしたことは明白だろう。
さいごに
ここまで論じてきたように、第2次安倍政権下では自衛隊や日米同盟の抑止力強化、積極的な外交政策の展開といった点では中国に対応する態勢を整えてきたものの、中国を中心とした他国への人的依存を増加させるという脆弱性が醸成された。新型コロナウイルスは、日本が他国への人的依存を深めてきたことのもたらすリスクを顕在化させており、その点が安全保障上大きな課題であることが明確になった【注27】。
第2次安倍政権下、日中間における大国間競争の色彩は濃くなったが、自衛隊の防衛力整備や米国などとの連携強化を図りつつ、中国との関係改善を模索した硬軟を交えたアプローチは、対中関係にとどまらず、日本の外交政策全体にとっての1つの転機になったと考えられる【注28】。また、米国の国際的な指導力に陰りも見られるようになり、かつ冷戦後のリベラルな国際秩序が変動期にある最中、第2次安倍政権下で行われた対外政策が基盤となったかたちで日本の国際的役割が増していくことが見込まれている【注29】。こうした環境下で日本は、経済安全保障の観点から、インバウンド需要や日本社会の将来像を再検討すべき段階を迎えている。
最後に、本稿の議論に関連する留意点として、筆者は日中関係の改善や安定化に反対ではないことに言及したい。むしろ、日中関係を安定的に保つことは、本来は両国双方にとっての共通利益であるはずだ。しかしながら、現実問題として、日中関係をどこまで改善できるのかに関する見通しを立てることは容易ではなく、これからの両国関係がより緊迫化する事態も想定される。
台頭する中国との向き合い方に関して求められていることは、日中関係は力と力の鍔迫り合いの状態にあるという現実を冷静に踏まえることであろう。一見すると魅力的かつ非政治的な様相を呈する経済分野についても、昨今の日中関係に鑑みれば、やはり警戒しつつ両国間での協力の在り方を模索する姿勢が欠かせない。現実主義に基づいた日中関係という視点から、これからの対中戦略を策定する必要性が日本には求められているのである。
【注1】自由主義的な相互依存論では、経済的な結びつきが強まれば強まるほど、国家間で戦争や対立が生じる可能性は減ると論じられてきた。相互依存の深化によって日中関係が安定するという意見は、そのような考えに由来するとみられる。しかし、近年、ある特定の国家がサイバー空間、エネルギーや金融分野などにおける国際的な相互依存を利用するかたちで他国に対する優位を築きあげ、その相手国に自らの意思を強要しようとする行動が目立つようになっている。そのため、従来の相互依存論への懐疑的な見解も提示されている。この点に関しては、Daniel W. Drezner, Henry Farrell, and Abraham L. Newman (eds.), The Uses and Abuses of Weaponized Interdependence (Washington D. C.: Brookings Institution Press 2021).
【注2】阿南友亮『中国はなぜ軍拡を続けるのか』(新潮社、2017年)、関山健「経済相互依存と政治関係:日本と中国‐国交正常化 45 年の変化と今後」『鹿島平和研究所』(2017年):http://www.kiip.or.jp/taskforce/doc/amzem20170805-sekiyama%20takashi.pdf。
【注3】4項目合意の内容は、①「双方は、日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した」、②「双方は、歴史を直視し、未来に向かうという精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」、③「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」、④「双方は、様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して、政治・外交・安保対話を徐々に再開し、政治的相互信頼関係の構築に努めることにつき意見の一致をみた」である。「日中関係の改善に向けた話合い」『外務省』(2014年11月7日):https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/page4_000789.html (2021年6月1日閲覧可)。
【注4】2010年代の日中関係については、江藤名保子「日中関係の再考:競合を前提とした協調戦略の展開」『フィナンシャル・レビュー』 (財務省財務総合政策研究所、2019年8月)、105-132頁:https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list7/r138/r138_07.pdf、を参照。
【注5】井形彬「日米同盟は『経済安全保障』の時代へ:菅・バイデン共同声明で鮮明に」『SYNODOS』(2021年4月26日):https://synodos.jp/international/24263 (2021年5月1日閲覧可)。
【注6】エコノミック・ステイトクラフトや経済安全保障の詳細については、國分俊史『エコノミック・ステイトクラフト:経済安全保障の戦い』(日本経済新聞出版、2020年)。
【注7】習近平の経済安全保障に関する主な講話については、中共中央党史和文献研究院編『習近平関于総体国家安全観論述摘編』(中央文献出版社、2018年)、70-99頁。
【注8】長谷川将規『経済安全保障:経済は安全保障にどのように利用されているのか』(日本経済評論社、2013年)。Bonnie S. Glaser, “China’s Coercive Economic Diplomacy: A New and Worrying Trend”, The Center for Strategic and International Studies (August 6, 2012): https://www.csis.org/analysis/chinas-coercive-economic-diplomacy-new-and-worrying-trend(2021年2月16日閲覧可); James Reilly, “China’s Unilateral Sanctions”, The Washington Quarterly, Vol. 35, No. 4 (2012), pp. 121-133. 冷戦期においても、中国は貿易や投資などを他国に対するアメとムチとして駆使する外交を行っていた。Guang Zhang, Beijing’s Economic Statecraft during the Cold War 1949-1991 (Washington D. C.: Woodrow Wilson Center Press, 2014).
【注9】習近平政権下の中国が自国のアウトバンド需要を外交的にどのように利用しているかに関しては、次の研究が詳しい考察を行っている。Darren J. Lim, Victor A. Ferguson and Rosa Bishop, “Chinese Outbound Tourism as an Instrument of Economic Statecraft”, Journal of Contemporary China, Vol. 29, No. 126 (2020), pp. 916-933.
【注10】「習近平在博鳌亜洲論壇2013年会上的主旨演講(全文)」『中華人民共和国中央人民政府』(2013年4月7日):http://www.gov.cn/ldhd/2013-04/07/content_2371801.htm (2021年4月13日閲覧可)。
【注11】Lim, Ferguson and Bishop, “Chinese Outbound Tourism as an Instrument of Economic Statecraft”.
【注12】Peter Harrell, Elizabeth Rosenberg, and Edoardo Saravalle, China’s Use of Coercive Economic Measures (Washington D. C.: Center for a New American Security, 2018); Lim, Ferguson and Bishop, “Chinese Outbound Tourism as an Instrument of Economic Statecraft”.
【注13】Lim, Ferguson and Bishop, “Chinese Outbound Tourism as an Instrument of Economic Statecraft”, pp. 930-931.
【注14】Ibid, pp. 927-929. THAAD問題をきっかけとした中国の韓国に対する経済的な圧力は、韓国国内でいまだに記憶として鮮明に残っているようである。2020年に公表された言論NPOによる日韓世論調査によると、韓国側の中国の動向に対する懸念について、米中対立(49.3%)の次に多い項目が「韓国に対する強圧的な外交」(35%)となっているが、この点はTHAAD後の中国の対韓政策に対する韓国側世論の認識を反映している。言論NPO『第8 回日韓共同世論調査 日韓世論比較結果』(言論NPO、2020年)、39頁。
【注15】2020年になってから豪州への不満を強めるようになった中国は、豪州からの輸出品に対する輸入制限などの経済的な報復措置を相次いで実施している。韓国と同じように米国の正式な同盟国であるとともに対中経済依存を深めてきた豪州は、強硬な姿勢を見せる中国の格好の標的になっている。Chongyi Feng, “What’s behind China’s Bullying of Australia? It Sees a Soft Target —and an Essential One”, The Conversation (December 2, 2020): https://theconversation.com/whats-behind-chinas-bullying-of-australia-it-sees-a-soft-target-and-an-essential-one-151273 (2021年6月2日閲覧可).
【注16】Ethan Meick and Nargiza Salidjanova, China’s Response to U.S.-South Korean Missile Defense System Deployment and its Implications (Washington D. C.: U.S.-China Economic and Security Review Commission, 2017), p. 9.
【注17】「訪日中国人、この12年で10倍増:2019年の旅行消費額は1兆7700億円に」『Nippon.com』(2020年1月28日):https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00646/ (2021年2月16日閲覧可)。
【注18】「『外国人留学生在籍状況調査』および『日本人の海外留学者数』等について」『文部科学省』(2021年3月30日):https://www.mext.go.jp/content/20210330-mxt_gakushi02-100001342-01.pdf (2021年4月12日閲覧可)。
【注19】「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」『法務省 出入国在留管理庁』(2020年6月):http://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_touroku.html (2021年4月12日閲覧可)。
【注20】「第4表 国籍・地域別 特定産業分野別 特定技能1号在留外国人数」『法務省 出入国在留管理庁』(2020年12月):http://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/nyuukokukanri07_00215.html (2021年4月12日閲覧可)。
【注21】張玉来「日本多措併挙応対少子老齢化 (経済透視)」『人民日報』(2021年1月6日)、17頁。
【注22】蓮沼奏太「新型コロナウイルス感染症が観光政策に示した課題」『立法と調査』No.428 (2020年10月):https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2020pdf/20201001041.pdf
【注23】たとえば、台湾有事が発生すれば、それは事実上日本有事を意味していることから、日本が米中間での武力紛争に巻き込まれる可能性を非現実的なものとして排除するべきではない。その点に関しては、兼原信克「台湾有事阻止のために日米で万全の抑止力を:防衛力増強など新たな政策が必要」『Nippon.com』(2021年5月13日 ):https://www.nippon.com/ja/in-depth/a07402/ (2021年6月3日閲覧可)。
【注24】2030年に訪日観光客6000万人という方針を依然として日本政府は掲げているが、その数値は、明らかに日中関係などの国際情勢に対する楽観的な見方を前提としている。「令和3年3月22日(月)午前」『内閣官房』(2021年3月22日):https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202103/22_a.html (2021年4月12日閲覧可)。
【注25】習近平「国家中長期経済社会発展戦略若干重大問題」『求是網』(2020年10月31日):http://www.qstheory.cn/dukan/qs/2020-10/31/c_1126680390.htm (2021年2月8日閲覧可)。
【注26】観光分野だけではなく、中国政府の対応次第では、中国から日本への留学生の流れが緩まる可能性もゼロではない。たとえば、豪州は留学産業を盛んに進めてきたが、留学生の最大の供給源はおよそ4割を占める中国である。2010年代半ば頃から中豪関係が悪化し始めると、中国政府は自国の留学生に対して豪州滞在中のリスクについて警告を発するなど、留学を制限しようとするかのような言動を見せた。中国が豪州の教育サービスを標的とした措置を課す潜在性については、これまでも指摘されてきた。Harrell, Rosenberg, and Saravalle, China’s Use of Coercive Economic Measures, pp. 48-49.
【注27】中国が日本のインバウンド需要をテコとした経済的な圧力をかけてくるリスクへの懸念から、インバウンド政策について警鐘を鳴らすのは筆者だけではない。細川昌彦「いまだ『訪日客6000万人』を掲げる愚、欠けている安全保障の視点」『日経ビジネス』(2020年7月28日):https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00039/?P=1 (2021年2月8日閲覧可)。
【注28】かつてプロイセン王国のフリードリヒ2世は、「武器のない外交は楽器のない音楽のようなものである」との格言を残したことで知られているが、この原則はいつの時代の国家にとっても不可欠であると思われる。Henry Nau, “The Best Diplomacy Is Armed Diplomacy”, Wall Street Journal (September 18 2013): https://www.wsj.com/articles/the-best-diplomacy-is-armed-diplomacy-1379542924 (2021年5月1日閲覧可).
【注29】この点については、松岡美里「リベラルな日米同盟と『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』の意義:安倍政権の安保政策を振り返る (3)」『SYNODOS』(2021年3月24日):https://synodos.jp/international/24211 (2021年5月1日閲覧可)。