コラム  エネルギー・環境  2021.05.13

水素を動脈/炭素を静脈とする新しいサプライチェーン (2)

エネルギー・環境

1.少しだけ前置き


気候変動問題への対応、温室効果ガスの排出抑制は、もはや国際政治や企業経営のprimary agendaとなりつつある。個々の異常気象が真相としてどの程度まで温室効果ガスの影響に依るものなのか、あるいは、宇宙空間、太陽系、生命体、人類という壮大な時空間の中では些細な出来事なのか。そうした根源的疑問は現実の政治にとって意味がない。ひとたび形づくられた政治的正義は、第二のガリレオ・ガリレイが登場しない限り覆されることはない。

他方、人類にとって温室効果ガス抑制だけが究極の達成目標ではない。貧困と飢餓の撲滅、教育と健康の確保なども包含したSDGs「持続的な開発」、すなわち、環境と経済の持続的両立こそが真の目標である。全ての国・地域による協働、collective actionによって世界全体がSDGs目標に向かって前進することが重要である。現下のコロナウィルス感染症との闘いの中で生じているワクチン争奪戦、ワクチン覇権外交にみられるがごとく、「持てる者」(巨額の投資者)による先行利益(レント)がdriving forceとなって新しい薬やエネルギーが創造され、営利主義と平等主義の相克のプロセスを経て世界は協調へと向かう。現実のプロセスは理想主義者の望むようには進まない。

「日本は温室効果ガス削減にどの国よりも野心的目標を。」「日米が、G7が先進的役割を。」といった政治的メッセージは正しい。というか、やむを得ない。しかし、具体的な数値目標の設定に当たっては、日本の足元の状況を正確に理解することも大切である。天然資源や再生可能エネルギーのポテンシャルに恵まれない、しかも脱炭素の最大の主力であった原子力発電の挫折を経験してから年月の浅い日本が進むべき道は、「短期的数値目標で見栄を張ること」ではなく、「長期目標へ向けて着実に進むこと」「アジア諸国や新興国と共に歩むこと」そして「最後にはやり遂げること」である。数世紀かけて人類の産業文明を進化させてきたエネルギー構造を30年で完璧に塗り替えるのは至難の業である。日本だけが経済を犠牲にしてまで目標を実現させたとしても、発展途上国を含めた世界全体が足並みを揃えないと究極のゴールには辿り着けない。発展途上国は今後の経済成長のためにまだまだ化石燃料を利用せざるを得ないし、利用する権利がある。それを最高度の効率利用に誘導し、カーボンマネジメントで協働するように仕向ける。それが日本の役割だ。世界各国がそれぞれの状況を反映したカーボンニュートラルへの道筋を(政治的にではなく)科学的に描き、これをcollectiveな行動へとプッシュしていく。日本はそういう仕事をしたい。

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水素を動脈/炭素を静脈とする新しいサプライチェーン (2)