メディア掲載  グローバルエコノミー  2021.04.20

「コメの生産調整と持続可能な農業」

NHKラジオ第1 三宅民夫のマイあさ!深よみ。(2021年4月16日放送)

農業・ゲノム

Q1:今年度のコメの減産、過去最大規模になるとも言われています。どのような背景があるのでしょうか?

新型コロナで外食産業での需要が影響を受けたということもあるのですが、米の需要は毎年10万トンずつ減少しています。これに加えて、昨年産が20万トン以上目標数量を上回ったことから、今年は30万トン以上の減産が必要だとされています。政府は米の生産減少に補助金をつけています。農林水産省が示した適正生産量は693万トンで1967年の1,426万トンから半分以下に減少することになります。


Q2:そのコメですが、国連の「SDGs」の達成にとって重要な作物とのこと。どういうことでしょうか?

国連“持続可能な開発目標”(SDG)は、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で17の目標があります。

国連“持続可能な開発目標”(SDG)は2番目に、「飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する」としています。

まず、人にとって第一に重要な食料・農産物は、生命維持に必要なカロリーの供給源である穀物だと思います。その中で、農業の持続性の面から重要なのがアジアのコメです。

Q3:穀物の中で、どうしてコメが重要なのでしょうか?

世界の穀物生産は、米を作る水田農業と小麦やトウモロコシなどを生産する畑作農業に分かれます。穀物ではありませんが、畑で作られる大豆も重要な作物です。水田農業は主に日本などアジアモンスーン地域で、畑作農業は主に欧米で行われています。

このうち畑作農業は、農業の持続性の点で、いろいろな問題が起きています。一方で、水田農業にはそうした問題がなく、持続可能な農業です。


Q4:まず、畑作農業について伺います。どんな問題があるのでしょうか?

農地に外部から人工的に水を供給する「かんがい」が行われています。畑作地域の一部では、水を使いすぎたために、川に水が流れなくなったり、地下水の水位が低下してしまうという問題が指摘されています。川から水を採りすぎて中央アジアのアラル海は干上がりました。これは20世紀最大の環境破壊と言われています。また、アメリカ大平原の地下水資源であるオガララ帯水層の5分の1が消滅したといわれています。

かんがいとの関係で問題を起こしているのが塩害です。かんがいをするとき、排水が十分にできないと、水の毛細管現象によって、土壌中の塩分が地表に持ち上げられ、表土に堆積してしまいます。これで畑は一面雪が降ったように白くなります。こうなると、植物は育ちません。

土にも問題が起きています。植物が育つためには、土壌には、植物が水を吸収できるよう、水を貯める保水性と、呼吸できるよう、空気を通す通気性という相矛盾する機能が要求されます。このような構造を持つ土壌は有機物と土壌微生物によって長い期間をかけて作られたもので、表面から30㎝程度の深さ以内の「表土」と呼ばれるものに限られてています。

風や雨にさらされると、この土がなくなります。

アメリカではこうした土壌侵食が発生しやすい地域が多い上に、大型機械の活用により表土が深く耕されるので、雨風で土壌侵食がさらに進行します。1930年代アメリカ大平原の農地からシカゴやニューヨークまで表土が吹き飛ばされるダストボウルという現象が発生しました。スタインベックの怒りの葡萄の舞台です。このためアメリカ農務省に土壌保全局という特別の組織が設置されていますが、完全に抑え込んではいません。


Q5:では水田農業は、どのような点で重要なのでしょうか?

アジアモンスーン地域の水田は、これらを上手に解決してきました。水田は水の働きによって森林からの養分を導入し、病原菌や塩分など害のあるものを洗い流してきました。つまり「水に流し」てきたのです。水田は雨水を止め、表土を水で覆うことによって、雨風による土壌流出を防ぎます。中国の長江流域で7千年もの間、米作が、連作障害もなく、毎年継続してきたのは水田の力です。

(すでに1900年ころウィスコンシン大学の土壌学者、フランクリン・キング教授が日本や中国を訪問しました。彼は、わずか数十年の間に激しい土壌浸食を生じてしまったアメリカ農業に比べ、数千年の間持続的な農業を行い多数の人々を養ってきたアジアの水田農業に驚き、「東亜4千年の農民」という書を著しました。)

ただ、今でも水田の力はアジア以外、特に欧米人には知られていません。OECDの会議でも念頭にあるのは畑作農業のことばかりです。ある大使館主催のセミナーで、カナダの農家が水田で米を作るのはモノカルチャーなので環境のために輪作すべきだと発言したのには唖然としました。

日本の米作農業は、水資源を枯渇するどころか保全する、環境にもやさしい農業です。水田は巨大な緑のダムです。水田による米作こそ、世界最高の“持続的農業”です。


Q6:このまま水田が減っていくと、日本の食糧の供給にどんな問題がありますか?

政府は、米価を高く維持するために減反政策を50年以上も続けています。水田面積は1970年の350万ヘクタールから240万ヘクタールに減少しました。このままでは、毎年米の生産は減少していきます。一方で、アメリカなど畑作農業で作られる小麦などの輸入は増加しています。米を500万トン減産して、麦を800万トン輸入しています。

持続可能な農業の推進だけではなく、食料の安定確保というSDGsからも問題が多いと思います。