本稿では、まずこれまでの林業政策の歴史と特徴を分析する。そのうえで、現在の市町村による林地の公的管理という新しい政策を効率性の観点から分析した後、望ましい政策を提言したい。
農業と異なり、林地解放は行われなかったが、戦後集落の共有地を構成員に配分したため、小規模な林地所有者が多く存在するようになった。戦後旺盛な木材需要に国産材の供給は追いつかなかったため、輸入自由化によって高い木材価格を抑える必要があった。それでも国産材価格は1980年頃まで一貫して上昇していたため、林業界は関税や価格支持の必要性を感じなかった。これが価格政策に依存した農業と大きく異なる。他方で、林業が衰退していくに従い、再造林、間伐、機械導入など多種多様な補助金が交付されるようになり、現場で林野行政を担当する自治体担当者の裁量や創意工夫を奪っていった。70年代以降、木材生産から加工・流通に力点を置くようになっているが、山元への利益還元には効果がなかった。
近年、国産材時代の到来とか林業成長化が叫ばれ、短伐期の皆伐による生産量の拡大が目指されている。そのためには、林地を集約して団地化を推進すべきだとされているが、団地化によって効率化が図られることは統計上全く示されていない。林野庁が効率化の目標としているドイツやオーストリアでは皆伐は禁止されている。また、生産量の拡大が要請されているため、素材生産業者は、手間暇かかるA材(製材用)よりもB材(集成材や合板材用)、C材(チップや木質ボード用)の供給を優先するようになっている。択伐による長伐期化を進める方が、木材の品質向上、再造林コストの減少、近自然的林業による多面的機能の向上から、望ましい。また、品質面では乾燥が要求されるようになっているが、国産材は十分に対応していない。
森林組合は自らの組織の利益を拡大するという観点ではなく、組合員のために、造林だけではなく伐採事業にも積極的に関与し素材生産業者の独占性を緩和するよう努めていく必要がある。
2018年の森林経営管理法は経営管理されていない林地の公的管理を打ち出した。しかし、これは非効率な手法であり、その費用が森林環境税によって充当されると、納税者が無駄な経費を負担されることになる。市場取引を活用すれば、より効率的な管理ができる。しかし、これでも林業経営が行われない林地”bads”をいかに管理していくかというものであり、林地を”goods”として活用していくとともに将来世代に森林資源を引き継ぐためには、森林所有者に対する“直接支払い”を導入し、近自然的林業を目指すべきである。