メディア掲載  グローバルエコノミー  2021.03.01

株式会社の農地取得、また見送るか

日本経済新聞 2021年2月2日夕刊『十字路』に掲載

農業・ゲノム

株式会社の農地取得は長年認められなかった。農地法の自作農主義では耕作者は所有者でなければならないが、株式会社では、耕作者は従業員、所有者は株主になって、これは成立しない。農家が「法人成り」したような厳しい要件の株式会社に限り農水省が認めたのは、農地法の成立から半世紀ほどたってからだ。

しかし農業の担い手を要件の縛りのない株式会社にまで広げないと中山間地域の農地は守れないと、切羽詰まった兵庫県養父市長は国家戦略特区制度を利用して養父市に限りこの農地取得を認めさせた。これを全国に認めるか否かで、国家戦略特区諮問会議の民間議員と農水省が対立。総理預かりとなった結果、このほど全国展開を当面は見送って、2021年度中にニーズと問題を全国で調査して検討することになった。

株式会社に反対する理由として「株式会社は宅地などに転用してもうける。耕作放棄や産業廃棄物を投棄する」などと指摘されてきた。しかし現在の農地面積440万ヘクタールの6割に相当する280万ヘクタールの農地を、転用または耕作放棄してきたのは農家だ。転用は農地法で規制できるし、耕作を放棄などするときはこれまでの特区制度のように自治体が買い戻せばよい。

重要な問題は、農業をやりたい農家以外の出身の若者がベンチャー株式会社をつくって親や友人から出資してもらい、農地を取得しようとしても認められないことである。融資しか認められないので、失敗すると借金が残る。一方で農家の子弟であれば、都会に住むサラリーマンでも相続によって農地を取得できる。農業の後継者を農家の後継者に限定してきたため、農家の後継者が「農業は嫌だ」と言うと農業も後継者がいなくなる。これまでの制度が後継者不足を招いていることに、農水省は気づくべきだ。