メディア掲載  グローバルエコノミー  2021.02.25

イギリスが加入申請 TPPの行方は?

NHKラジオ第1 三宅民夫のマイあさ!「経済展望」 のコーナー(2021年2月19日放送)

通商政策 英国

EUから離脱したイギリスは、今月1日、日本をはじめとする11か国が参加するTPP=環太平洋パートナーシップ協定に、加入の申請を行いました。

イギリスの狙いはなにか。TPPはこれからどうなるのか。


Q1:TPPへの加入を申請したイギリス。どんな狙いがあるのでしょうか?

▼イギリスにとってブレグジットの大義名分は主権の回復だった。法律や規則をEUに決められるのではなく、自分たちで決めたいということ。EUから独立して他の国や地域と通商交渉を行うことは主権回復の大きな柱と位置付けられていた。

▼ところが、ブレグジットはイギリスにとって貿易額の5割を占めるEUとの貿易には大きな障害が残るものとなった。EUとの関係では外国になるので、関税がなくても、通関手続きなどが必要となる。トラックはスムーズに国境を通過できなくなる。

▼その中で、TPP参加によって成長する太平洋地域の諸国との貿易を促進することは、ブレグジットや新型コロナウイルスの蔓延で影響を受けるイギリス国民に明るい話題を提供できると、イギリス政府の担当者は考えているのだろう。

Q2:TPPよりも先に、日本とイギリスの間では、EPA=経済連携協定の交渉が行われ、今年11日に発効しました。イギリスにとってはどのような戦略があるのでしょうか?

▼この順番にはイギリスの考えがある。日本にとっては、ブレグジットでイギリスがEUから抜けるので、ブレグジットの移行期間終了後の20211月以降、日EU自由貿易協定を使って日本車などをイギリス市場に関税なし(一定期間は削減された関税率)で輸出することはできなくなる。

▼イギリスにとっては、日本と自由貿易協定を締結すれば、イギリス市場では日本車には関税がかからなくなるのにEU車には10%の関税が課されEU車のイギリス市場への輸出が困難となるので、EUに対し自由貿易協定を締結するよう圧力をかけることができる。この狙いは成功した。

▼このように、EUとの関係で、日英の自由貿易協定は両国にとって大きな意味を持つものだった。通常自由貿易協定の交渉には数年かかるのに、日英自由貿易協定交渉は20206月開始、10月妥結・署名というスピード交渉だった。

▼その次に、イギリスが関心を示したのがTPPだった。これは思い付きではなく、イギリスは、まずは日本との自由貿易協定、次にはTPPへの参加を考えていた。

Q3:イギリスがTPPへ参加すると、日本をはじめとするTPP参加国に、どのような影響がありますか?

▼イギリスは、TPP11が発効してからの初めての加入申請国となる。

▼これからTPP11の既加盟国との加入交渉を経て参加が決定されることになる。イギリスは先進国なので、先進的なルール受け入れや関税撤廃率を含め、参加に大きな障害はないものと思われる。農業国のオーストラリアやニュージーランドとの関係で、農産物の関税が問題になるかもしれないが、なんとか調整できるだろう。

▼これは、韓国やタイなど次に加盟申請を行う諸国への先例となるだろう。イギリスが高い規律を受け入れてTPPに参加すれば、これらの国にも同様のことを要求できる

▼また、TPP 域内という自由貿易圏は拡大する。TPPの拡大は、関税なしでの貿易を一層拡大することになる。参加することがますます有利となる。

▼もう一つは中国との関係。イギリス政府は中国に対する対応を「協調」から「対抗」に転換している。TPP11の加盟国の過半数は旧英連邦の国である。また、オーストラリアやベトナムなど中国から圧迫を受けている国もある。イギリスのTPPへの加盟には、これらの国と共同して中国に対抗しようとする狙いもあるのだろう。

〇イギリスが参加を申請したTPPはこれからどうなるのか。日本には何が求められるのか。

Q4:中国は去年11月に習近平国家主席がTPPへの参加に意欲を示しました。中国には、どんな狙いがあるのでしょうか?

▼中国は、昨年11月、ASEAN諸国に日中韓、オーストラリアやニュージーランドが参加する地域的な包括的経済連携協定(RCEP)に署名した。さらに、アメリカが脱退したTPPに参加することによって、アジア太平洋地域で経済的にもプレゼンスを高めようという狙いがある。また、通商政策や経済政策で、アメリカがトランプ政権のアメリカ第一主義に見られるように、内向きになっている。これはバイデン政権でもしばらく続く。その中で、中国は自由貿易を推進しているのだという姿勢を示そうとしている。

Q5:TPPは中国を受け入れるのでしょうか?

▼中国にとってTPPのルールを受け入れることは、高いハードルだ。このため、中国が今加入しようとすると、投資や国有企業などのルールについて大幅な適用除外が中国から要求されるだろう。これを認めると、中国には先進的なTPPの規律はほとんど課されなくなる。WTOにおいて、中国は国有企業に対する規律導入を明確に拒否している。

▼さらに、中国はWTO協定や加入議定書で要求されたことも十分に守ってこなかった。中国の鉄鋼業への補助金は、世界的な鉄鋼過剰を招いたと批判されているが、中国は補助金のWTO通報義務を履行してこなかった。中国のWTO加入交渉の失敗は繰り返すべきではない。

Q6:一方で、アメリカのバイデン政権のTPP参加はどうみていますか?

▼アメリカはTPPから脱退したものの、TPPを主導した国であり、アメリカ国内で高まっている中国に対する対抗関係の重要性やアジア太平洋地域における中国のプレゼンスの増大を考えると、TPPを推進したオバマ政権の副大統領だったバイデン大統領が、2022年の中間選挙後にTPPに復帰しようとすることも十分考えられる。

Q7:イギリスが参加の申請を行い、中国が意欲を示した動きもあります。TPPで中心的な役割を担う日本は、どのようなかじ取りが求められるのでしょうか?

▼日本はTPPの加盟国として新規加入申請を行う国に、様々なことを要求できる立場にある。中国であれ、アメリカであれ、どの国に対しても、日本企業が抱える問題に対してその是正や解決を率直に要求し、それを実施できるようにする良いチャンスだ。また、イギリスだけではなく、中国などこれに続く国に対しても、高いレベルのルールや規律を受け入れて加入するよう、差別することなく公平に要求していくべきだ。