メディア掲載  財政・社会保障制度  2021.02.25

【数字は語る】コロナ禍での中長期試算から 何が読み取れるか  ~予測と実績の乖離を示せ~

週刊ダイヤモンド(2021年2月20日発行)に掲載

税・社会保障

3.4倍 当初予算と第3次補正予算後における2020年度の財政赤字の変化 *内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2017年1月版)等を基に筆者作成


予測や試算は、一定の前提に基づいて推計を行うものであり、推計と実績が乖離する可能性があるのは当然である。だが、英国やオーストラリア等では、GDP成長率の予測が実績と乖離した場合にはその要因分析を行い、モデルや推計方法に関する有識者の意見も取り込みながら、次回以降では乖離を縮小させるための仕組みが存在する。

日本は残念ながら、予測と実績の乖離に関する要因分析や事後検証をしておらず、情報公開もない。

例えば、日本で政府が示す試算のうち重要なものの一つは、中長期的な財政の姿を把握するため、内閣府が定期的に公表する「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」)だろう。

政府は2025年度までに国・地方の基礎的財政収支(PB)黒字化の目標を掲げるが、中長期試算が重要な理由は、目標の達成状況を把握する手段となっているからである。だが、中長期試算では、目標達成の把握のコアとなる債務残高やPBの予測の精度を高める仕組みが存在しない。

先般、内閣府が公表した最新の中長期試算では、国・地方の公債等残高(対GDP)が縮小していく予測になっているが疑問が多い。なぜなら、中長期試算の過去の予測では公債等残高は常に縮小していくと推計していたが、予測は外れており、公債等残高は増加の一途をたどっているからだ。

この問題はPBや財政収支の予測にも表れている。今回コロナ禍にもかかわらず、影響は限定的で、従前の試算と比較しても財政赤字の予測に大きな変化がなく、にわかには信じ難い試算である。

最近もコロナ対策で政府は巨額の財政赤字を計上した。20年度における国の当初予算(一般会計)は約100.8兆円だったが、第3次補正予算まで編成があり、歳出合計は175.7兆円に膨張した。その結果、20年度の国・地方の財政赤字は75.7兆円に拡大した。当初の予測は22.1兆円だったから、その約3.4倍だ。

コロナ禍で厳しい財政状況が予想される今こそ、政府は正確な情報を提供し、中長期試算の信頼性を高めていく仕組みが求められる。