多くの人がこれを読むころには米国新大統領就任式も終わっているはずだ。巷の関心はトランプ氏のツイートからバイデン氏の政策に移っていようが、筆者は今回あえてトランプ政権を総括する。「トランプ現象」とは何だったのか。バイデン新政権に如何なる影響を与えるのか。最近の米国内政報道から見え隠れする事実は衝撃的ですらある。
◆大統領の異常な言動
昨年11月以降のトランプ氏の言動は常軌を逸していた。「不正選挙」を主張し各激戦州で選挙無効を裁判所に申し立てる。不発に終わると12月の大統領選挙人投票への介入を画策する。さらに、意図的かはさておくとしても、今年1月6日にはそのツイートが過激なトランプ支持者を扇動し連邦議会議事堂に乱入させ、多数の死傷者を出す。ここまでは報道の通りである。
◆6時間の空白
最大の問題は6日のトランプ氏の言動だ。暴徒の議事堂乱入開始後、親族を含む多くの関係者がトランプ氏への接触を試みたが、どうしてもつながらない。その間トランプ氏は大混乱のテレビ生中継に釘付けだったからだ。その後トランプ氏は、イバンカ娘婿夫妻やペンス副大統領に説得され、ようやく「暴力非難」のメッセージを発表したが、それは混乱開始から6時間もたった後のことだった。
◆そして誰もいなくなった
トランプ氏は過去4年間、毎年のように主要補佐官・閣僚を更迭してきた。理由はトランプ氏の性格だけでなく、政策上の対立によるものもあり、それ故に求心力も残っていたが、議事堂事件により政権内の空気は一変した。これまでトランプ氏を支えてきた忠実な側近たちが一斉に辞任し始めたからだ。1月6日、トランプ氏の疑心暗鬼は頂点に達した。同日朝トランプ氏はペンス副大統領に「選挙結果の変更」を求めたが、彼はそれを拒否し、両者の関係は終わったという。トランプ氏は各地の法廷闘争に奔走した盟友ジュリアーニ弁護士すら批判しているそうだ。まさに末期症状ではないだろうか。
◆悲観論と楽観論
議事堂事件について米国では見方が2つに割れている。楽観論者は、これは「トランプ現象」の終わりにすぎず、いずれ米民主政治は正常化すると見る。一方悲観論者は、これは米民主主義の「終わりの始まり」であり、トランプ氏は米民主主義を破壊したと批判する。一体どちらが正しいのか。筆者は「どちらも間違いだ」と考える。
◆トランプ現象は続く
前回筆者は「トランプ氏の引退はない」と書いた。確かに、今回トランプ氏は多くのものを失った。政治的にはペンス副大統領、マコーネル上院院内総務ら共和党主流派の支持を、広報面ではツイッターなどSNS媒体を、財政的にはドイツ銀行からの融資、興行面ではPGA(米プロゴルフ協会)ツアー開催権などだ。しかし仮にトランプ氏がいなくなっても、白人労働者層の不満が続く限り、彼らが支えるトランプ現象はなくならない。議事堂に乱入した過激主義者だけがトランプ支持者ではないのである。
◆バイデン支持は消極的
最新の世論調査によれば、バイデン新大統領が「正しい決断を下す」と考える者は49%しかいないそうだ。トランプ氏就任時の35%よりはマシだが、オバマ元大統領は61%だった。要するに共和党員のバイデン評価は低いのだ。されば、今後共和党がトランプ現象を継承する能力のある、トランプ氏より「若く、賢く、常識的な」候補者を見いだせば、民主党大統領の天下が1期で終わる可能性も十分あるということ。2024年の戦いは既に始まっている。