メディア掲載  外交・安全保障  2021.01.15

2021年に「起きないこと」

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2021年1月7日)に掲載

国際政治・外交

謹賀新年、本年もよろしくお願い申し上げる。昨年はコロナ禍のせいでヒトとモノの流れが変わり、多くは対面からネット上へ移った。されど、国際関係の大局は変化なし。昨年、筆者は(1)ユーラシア大陸の複数のランドパワー帝国が再び「力による現状変更」を志向し、(2)大陸周辺諸国が諸帝国の勢力下に組み込まれ、(3)これをシーパワーが結束して牽制(けんせい)し始める、(4)アジアの戦域は海上中心、西太平洋、インド洋・ペルシャ湾の一体性が一層重要になる-などと書いた。今年は2021年に「何が起きないか」を勝手に予想してみよう。



〔1〕中国は米国に屈しない

中国がコロナ禍を真に克服できたかは不明だが、当面は「封じ込め成功」を誇示するはずだ。習近平国家主席は予測可能性の高い米バイデン政権との取引を志向するが、中国が経済や安全保障で大幅譲歩することはない。逆に、気候変動問題では米大統領特使に就任する見通しのケリー氏の足元を見るだろう。

〔2〕露は諜報戦争をやめない

予想通り、2020年米大統領選でもロシアは暗躍。超大国から普通の国に転落しつつある中、対欧米スパイ工作はロシアの最前線だ。トランプ政権と異なり、バイデン政権はロシアに極めて厳しいので、ロシアはこの種の「戦争に至らない戦争」を世界各地で続けるしかないだろう。

〔3〕北朝鮮は暴発しない

バイデン政権にとり米朝対話再開の優先順位は低い。金正恩朝鮮労働党委員長はコロナと経済制裁の二重苦で動きが取れず、生存のため核兵器開発を継続。仮に米朝対話が再開されても、北朝鮮の「非核化」は進展しない。一部に北朝鮮の軍事的冒険を懸念する向きもあるが、今の金委員長に米軍が出動するような「挑発」はできない。

〔4〕東南アジアは結束しない

中国の対ASEAN影響力は拡大するが、同時に同地域の対中懸念・不信も増大するだろう。日米豪などが如何にASEAN諸国への働き掛けを強めても、ジレンマに悩む同地域が「反中」で結束することは当面ないだろう。

〔5〕印は対米同盟を組まない

昨年は中印国境が緊張するなど両国関係が悪化したが、インドが対中敵対関係を望むとは思えない。中国の一帯一路政策は一種の「インド包囲網」だが、インドが日米豪との「同盟関係」に踏み切るにはもう少し時間が必要だ。

〔6〕中東は安定しない

昨年は、既に進行していたパレスチナ問題の風化とイスラエル・アラブ関係改善という現状が「追認」された。だが、これで地域全体の安定が進むとは思えない。バイデン政権は対イラン関係再改善を試みるも、成功する保証はない。中東は今年も不安定なまま迷走を続けるだろう。

〔7〕EUは分裂しない

英国は離脱したが独仏連携は当面続くので、EUは破綻しない。バイデン政権で米欧関係は改善するが、最大の焦点はドイツのメルケル首相退任後の独内政だ。

〔8〕トランプの引退はない

米国ではトランプ氏が決して大統領選の「敗北」を認めず、2024年の再起を狙うだろう。だが、米国では「4年」が一昔であり、トランプ氏が影響力を維持するのは困難だ。逆にそれが続くようなら米共和党は分裂か、衰退かの岐路に立つだろう。

〔9〕日本の安定は続かない

最後は日本。昨年は「急変する国際情勢に日本の内政が耐えられるか」と書いた。コロナ禍が続き国民の閉塞感が高まる中、内政が不安定化すれば、日本の国際的地位と影響力に悪影響を及ぼしかねない。そうならないことを改めて祈りつつ、今年もご愛読をお願い申し上げる。