新型コロナが感染拡大する中、急務となる医療提供体制の整備と、感染拡大防止のための実効性ある体制構築のために、法的措置を含め、以下6点について速やかな行動を講ずるよう緊急提言する。
1.ゾーニング改修工事によりコロナ重症者用ICU数を倍増
ICUの総数は相当数あるのに新型コロナ重症患者に対応できるICUの数が不足している大きな要因は、ICUが大部屋形式で運用されている場合、非コロナ患者を同室にすることができず、コロナ患者対応ができないため。こうした大部屋に隔壁および陰圧装置を設置するゾーニング改修工事を実施すればコロナ重症患者に対応できるICUの数を倍増させることが可能。
感染が拡大中の現段階でも工事が可能な医療機関における改修を、行政が順番等を調整して速やかに進めるとともに、感染が小康状態となった段階で一気に工事を進め、コロナ重症者用ICUの倍増を実現すべき。同時にこのため必要となる人員確保を円滑化するため、人員配置標準は緊急・臨時的に柔軟化すべき。
また、医療従事者の感染不安や家族の心理的負担を軽減し、安心して職務に精励できる状況を作るために、医療従事者への定期的なPCR検査を実施できる体制を整備すべきである。
このため計上されている今年度の予備費を最大限に有効活用し、迅速に体制整備を推進すべきである。
2.医療機関に対する知事の調整権限を法定化
医療資源を最大限効率的に活用するためには、上記ゾーニング工事の計画的実施を含め、医療機関間の役割分担・連携が不可欠。このためには、医療機関毎の自主的対応だけでは限界があり、緊急時には知事による強力な調整権限が必要。このため、特別措置法を改正し、医療機関の取り組みを求める知事の調整権限を法定化することが必要。
3.緊急事態宣言前の知事の権限の強化
都道府県知事が特別措置法48条の「臨時の医療施設」を開設できるのは、緊急事態宣言がなされた後に限定されている。また、政令市が設置する保健所に対し、緊急事態宣言前の時点では、知事は総合調整や資料提供を求めることはできるものの、指示権を持たない。感染拡大防止の観点からは、特別措置法改正によって、緊急事態宣言前の段階においても知事が臨時の医療施設を開設できるようにすべきであり、また、政令市設置の保健所に対して指示を行いうるようにし、指揮命令系統の一元化を実現すべき。
4.休業要請や営業時間短縮要請の実効性強化
新型コロナ感染の長期化に伴い、休業要請や営業時間短縮要請に対する事業者の協力が得られにくくなっているのが実態。要請に協力している事業者から見れば、協力していない事業者の存在に対する不満があり、今後の協力確保の支障となりかねない。また、今後感染レベルの抑え込みに成功したとしても今年6月・7月のように一部の接客を伴う飲食の継続によって感染の火種が拡大するような事態は避けるべき。
このため、休業要請や営業時間短縮要請にもかかわらず、協力が得られず、感染拡大防止に特に必要があると知事が判断する場合、要請の対象者に対して遵守義務を課すべき。この際、要請に自主的に応じた事業者と同等の協力金・見舞金は交付すべきであり、このため必要な特別措置法の改正を図るべき。なお協力金・見舞金は、画一的な金額にするのではなく、規模、従業員数、納税の際に申告された売り上げなどを反映した客観的な基準で決めるべきである。
5.宿泊療養の法定化、自宅療養時の外出制限、調査への協力責務
いまの法律は原則入院なので、医療に大きな負荷をかけている。病院の負荷を軽減するためには、新型コロナの無症状者・軽症者についてはできるだけ宿泊療養や自宅療養で対応することが必要。しかしながら、宿泊療養を求める法的根拠が無く、自宅療養者に対して外出を制限できる法的権限もない。このため、宿泊療養に対応してもらうための現場説得負担が保健所に生じたり、自宅療養者の外出によって感染が拡大しかねない問題がある。
このため、感染症法を改正し、宿泊療養を求める法的権限を設けるとともに、自宅療養者に対して外出制限を求める法的権限を導入すべき。
また、感染拡大防止のための国民の協力を着実に確保するため、感染経路調査等への協力責務を法的に明記すべき。
6.変異株流入阻止のための水際対策の抜本的強化
イギリスで発生した新型コロナウイルスの変異株は、欧州の関係当局の分析によれば感染力が従来の1.7倍も強く、蔓延すれば感染制御がきわめて困難になる。すでに日本の空港検疫で入国者に変異株の感染が発見されたことが12月25日に確認されたところであるが、こうした感染拡大リスクを踏まえ、政府当局が速やかに全世界からの入国規制を講じたことは評価したい。一方、11の国と地域とのビジネス往来の仕組みは維持されるが、それについては対象国・地域の変異株の発生状況に応じて、機動的に見直すべきである。
さらに、今後も起こりうる変異株の国内流入を阻止するためには、入国規制の強化とあわせて入国後の管理体制の大幅強化が急務である。入国者に対して入国後2週間の自宅待機要請を行っているが、その遵守とフォローアップを徹底する必要がある。このため、接触確認アプリなどICTの徹底的活用、自宅待機要請の義務化、保健所をサポートするかかりつけ医による健康観察や家族内隔離の支援など、法改正を含めた必要な措置を早急に導入すべきである。あわせて空港から宿泊場所までの隔離された交通手段の提供によって水際対策の実効性を上げるべきである。
以上が新型コロナとの戦いのためにいま必要とされる措置であるが、そもそも重症者対応体制が脆弱であった日本の医療提供体制の問題点等については、今後中期的課題としてしっかりと取り組んで行くことが重要であることを忘れてはならない。
コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会メンバー
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