メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.12.09

減反が妨げる農産物輸出

日本経済新聞 2020年10月15日夕刊『十字路』に掲載

通商政策

菅義偉首相は前政権時代から農林水産物の輸出振興の旗振り役だった。2020年に入って、縦割り是正のため農林水産省と厚生労働省の担当部局を一元化して、輸出を現在の1兆円から、10年後に5兆円へ増やす目標も決めた。

しかし、昨年の農林水産物・食品の輸出額9121億円のほとんどはホタテ貝などの水産物、輸入した小麦や砂糖などの加工食品だ。国産農産物とその加工品は牛肉297億円、清酒234億円、緑茶146億円、リンゴ145億円、コメ46億円、ブドウ32億円、イチゴ21億円で、その他の農産物を含めても2千億円に届かない。9兆円の農業生産額の2%だ。

では最も輸出に可能性のある農産物は何か。それは、生産調整(減反)が行われており、それがなければ大量の生産と輸出が可能な作物。長年にわたり生産しており国際市場で極めて評価の高い作物。コメなのだ。

輸出しようとすると、価格競争力を高めるとともに、生産量を増やさなければならない。しかし政府は年間4千億円の補助金を農家に払って生産を減らし、米価を市場で決まるよりも高く維持する減反政策を50年間も続けている。半分近い水田が減反され、コメ生産量はピーク時の半分に減少した。高い米価では輸出は増えない。輸出を増やすなら生産を増やさなければならない。効果的に輸出を増やす政策は、真の減反廃止によるコメ生産の増加である。コメだけで1.5兆円の輸出が可能と試算できる。

しかし、米価を高く維持することに特別の利益を持つ農業団体が存在する。高い米価は戦後農政の根幹だ。今のままでは5兆円の輸出は難しい。本格的に輸出しようとすれば、既得権を打破して、農政を根本的に改革しなければならない。菅政権にその覚悟があるだろうか。