メディア掲載  外交・安全保障  2020.11.26

バイデン新政権と日本の負担増

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2020年11月22日)に掲載

国際政治・外交 米国

前回お約束した通り、今回はバイデン次期政権に対し日本がとるべき施策について書こう。とは言っても、現時点では推測以上の話はできそうもない。何しろ通常ならとっくに本格化しているはずの「政権移行」が遅れているからだ。この遅れが致命傷にならないことを祈りつつ、日本が考えるべきことは何か。まずは怖い話から始めよう。


(1)根本から見直す米内政

普通の評論家ならまずは米国の対アジア、特に対中政策を考えるのだろうが、筆者は違う。今の米国はリーマン・ショックの犠牲となった白人労働者層とコロナ禍・人種差別の犠牲となった非白人層の怒りに満ちており、内政が劣化していると前回書いた。トランプ政権の最後の悪足掻きには閉口するが、それを上から目線で罵倒し続けるワシントンの民主党系識者も信頼できない。

一方、日本にも盲目的トランプ礼賛者が出現する始末。われわれは米内政の現実が見えなくなっているのではないか。今後「アメリカ合衆国」は復活するのか、それとも衰退するのか。まず最初にこの趨勢を冷静かつ客観的に分析する必要がある。


(2)ダークサイドの行方

米国内政を見る際の重要ポイントは、トランプ現象が一時的なものか、累積的かの判断だ。幸い今回、米民主主義は機能し、米国社会に一定の復元力があることは示した。

だが、トランプ氏の善戦も厳粛なる事実だろう。前回トランプ氏を勝利に導いた「白人民族主義、大衆迎合主義、排外主義、差別主義」、筆者がダークサイドと呼ぶあの醜い政治運動は生き残ったとみる。

民主党内でもリベラル政治家の劣化が進むだろう。われわれは「トランプなきトランプ現象」に翻弄されるバイデン政権を覚悟する必要がある。


(3)米同盟国同士の対話

前回は米国で穏健な保守派と現実的リベラル派が消え、政治の両極化が進んだとも書いた。このことはバイデン政権の下でも米国の内向き傾向に拍車がかかり、超党派の重大決定が難しくなり、世界の「公共財」である米国のパワーを同盟国が共有できなくなる可能性を示唆する。このままではアジア、欧州、中東など世界各地の米国同盟国同士で「米国の抑止力」の争奪戦が始まるだろう。

その前に、各国は知恵を出し協力してそうした事態を回避しなければならない。ケネディ元大統領の名言を捩(もじ)って書けば、「同盟があなたに何をできるかではなく、同盟のためにあなたは何ができるのか」を問うべきなのだ。それは米国のためかって?

冗談じゃない、それは日本自身のためである。


(4)バイデン政権の外交

あれあれ、また紙面が足りなくなってしまった。バイデン次期大統領は主要閣僚候補の指名を開始している。国務・国防両長官や国家安全保障担当補佐官を中心とした全体的な評価については改めて書くとして、今回はバイデン氏側近が最優先する「米国経済再生」について書こう。

米国経済はコロナと人種差別でかなり疲弊している。今後中国と競争するためには、まず経済を再建する必要がある。バイデン政権はその支援を同盟国に求めてくるだろうし、米国経済の再建は日本経済の安定にも繋がる。

問題はどこまでやるかだが、他の同盟国と同様、日本にも国内事情がある。武器の購入や駐留軍経費の議論だけでは解決しないかもしれない。ここでも中長期的な安全保障のコストの全体的見直しが不可避となるだろう。いずれにせよ、米国内政の劣化が日本を含む同盟国のコスト増を意味することだけは間違いなさそうだ。