メディア掲載  財政・社会保障制度  2020.10.27

【数字は語る】コロナ危機で発生した 膨大な債務を どの程度の期間で処理するか

週刊ダイヤモンド(2020年10月24日発行)に掲載

税・社会保障

2倍 60兆円の借金を20年で返済する場合と比較し10年で返済する場合にそれが経済に及ぼす損失コストを一定の前提で試算したもの  

出所:筆者試算

管義偉・新政権がスタート した。新型コロナウイル スの感染拡大は現在も継 続しており、政府・与党は第3次 補正予算を編成し、2021年1 月の通常国会に提出する予定だ。


20 年度の国の一般会計は、当初 予算の約102兆円から約160 兆円に膨張。主な財源は国債発行 で賄っており、コロナ危機が収束 するまでは難しいが、この借金は いつか返済する必要がある。
 

では、 60 兆円の借金を 10 年で返 済する場合と、 20 年で返済する場 合では、マクロ的に見て経済に及 ぼす影響はどの程度異なるのか。 当然、国債を償還する財源などに よって影響は異なるが、現在は低 金利のために国債の利払い費は考 慮せず、消費税率の引き上げで返 済するケースで概算してみよう。
 

まず、 10 年で返済する場合だ。 10 年での返済には毎年6兆円の財 源が必要だが、いま消費税率1% の引き上げで年間2.8兆円の税 収が得られるため、消費税率を2.14 %引き上げる必要があること を意味する。増税が経済に及ぼす 損失コストは、税率の2乗に比例し、定数×45.8(=定数× 10 年 ×2.14 の2乗)と表現できる。
 

他方、 20 年で返済するためには 毎年3兆円の財源が必要だが、こ れは消費税率を1.07 %引き上げ る必要があることを意味し、増税 が経済に及ぼす損失コストは、定 数× 22.9(=定数× 20 年×1.07 の2乗)となる。


以上から、 10 年で返済する場合 の損失コストは、 20 年で返済する 場合の2倍に及ぶと分かる。
 

もっとも、この計算では、国債 の利払い費といったコストを考慮 しておらず、慎重な判断が必要で あることは言うまでもない。いま 日本や世界の中央銀行は大規模な 金融緩和を行っており、 20 年後、
30 年後においてインフレが顕在化 する可能性もある。国債の償還を より長期で行えば、金利上昇のリ スクが高まり、国債の利払い費が 膨張する可能性も否定できない。 コロナ禍にあるいま、まずは危機 によって疲弊した経済の立て直し が先決であることは明らかだが、 頭の体操として、緊急経済対策で 発行した国債の返済方法について も議論を深める必要があろう。