メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.10.17

米の減産と農産物の輸出促進

NHKラジオ第1 三宅民夫のマイあさ!「経済展望」 のコーナー(2020年10月16日放送)

農業・ゲノム

Q1:菅総理は農家の出身でもありますが・・・、菅政権は農林水産物の輸出拡大に力を入れているようですね?

▼菅首相は前政権の官房長官時代から、農林水産物の輸出振興の旗振り役でした。政権交代前の今年3月、政府は農林水産物の輸出を現在の1兆円から10年後の2030年に5兆円に増やすという目標を決めました。

4月には、農林水産省と厚生労働省にまたがっていた海外交渉や輸出手続きの権限を農林水産省に一元化しました。これは新政権でアピールしている縦割り行政廃止のモデルです。

Q2:農林水産物の輸出、どのような状況にあるのでしょうか?

2019年の農林水産物・食品の輸出額は9千億円。そのうち、ほとんどは、ホタテ貝などの水産物、輸入した小麦や砂糖などの加工食品です。

▼国産農産物やその加工品は、牛肉297億円、清酒234億円、緑茶146億円、リンゴ145億円、米46億円、ブドウ32億円で、その他の農産物を含めても2千億円に届かないと思います。9兆円の農業生産額の2%程度です。

Q3:ずいぶん少ない・・・。輸出拡大は大変ということでしょうか?

▼海外への見本市への出店など、マーケティングやプロモーションを行っていますが、品質だけでは競争できません。ベンツは良い車ですが、値段が1億円もすると誰も買いません。価格競争力が重要です。日本に輸入されるときは価格競争力がないので関税が必要だといい、輸出するときは品質が良いので高くても売れるというのは矛盾しています。

Q4:値段が高いので、農産物の輸出は低い水準にとどまっているということですね。輸出拡大を期待できる農産物は

あるのでしょうか?

▼一つだけあります。米です。

米は、国内の需要を大幅に上回る生産力があるため、生産調整が行われており、それがなければ大量の生産と輸出が可能です。しかも、日本が何千年も育ててきた作物で、国際市場でも高く評価されています。アジアの国に行くと、日本はどうして米を輸出しないのかと聞かれます。米は日本が世界に誇る最高の品質を持った農産物です。

Q5:コメは多くの国で作られていて、輸出している国もあります。その中で、輸出の拡大は期待できるのでしょうか?

▼今の貿易は、同じ産業で、異なる品質の商品が、相互に輸出されたり、輸入されたりしています。同じ国でも人それぞれ好みが違うので、違う品質の商品を求めるからです。例えば、自動車では、我が国はベンツ、ルノーやボルボなどを輸入しながら、トヨタ、ニッサン、ホンダなどを輸出しています。

(▼農産物も同じです。アメリカはカリフォルニアワインで有名ですが、アメリカのワイン店では、世界中のワインが輸入され並んでいます。牛肉も、アメリカは、牧草で肥育されたハンバーグ用の牛肉はオーストラリアから輸入する一方で、トウモロコシなどの穀物で肥育した高級な牛肉は、日本などへ輸出しています。)

Q6:コメについてはどうでしょうか?

▼米については、日本米のような粘り気のある短いジャポニカ米、パサパサして長いインディカ米があります。品質や価格には大きな差があり、同じインディカ米でも、パキスタンのバスマッティ・ライスやタイのジャスミン米のような高級米と、低級米とでは、4倍の価格差があります。レクサスとカローラの違いと同じです。アメリカは327万トンの米を輸出しながら、ジャスミン米を中心にタイなどから77万トン輸入しています。アメリカ市場では日本も11番目くらいの輸出国です。

▼国際市場で、日本米は高い評価を受けています。香港では、同じコシヒカリでも日本産はカリフォルニア産の1.6倍、中国産の2.5倍の価格で取引されています。(追い風もあります。中国ではジャポニカ米の消費はほとんどなかったのに、電子炊飯器による調理方法が日本から普及してから、これに向いているジャポニカ米の消費はこの15年ほどの間に全体の4割まで増えています。)


Q
7:日本の農産物で輸出の拡大を期待できるのはコメということですが、

どうすれば輸出を増やせるのでしょうか?

▼米の輸出量は10年間で10倍に増えています。しかし、生産量全体からすれば、まだわずかです。商社の人は、価格が高すぎるため輸出がそれほど増えないと言います。

▼高い米価では輸出は増えません。輸出を増やすなら生産を増やさなければなりません。これまでの米政策を見直して、価格競争力を上げ、生産を増やせば、米だけで1兆円の輸出は可能です。

Q8:コメをめぐる政策は、根本的な見直しが必要なのでしょうか?

政府は、年間4千億円の補助金を農家に払って生産を減少させ、米価を市場で決まるよりも高く維持するという政策を、50年間も続けています。今では半分近い水田が減反され、米生産はピーク時の半分に減少しました。

▼米価を高くしてきたため、消費は減少し、生産調整を毎年強化してきました。50年ほど前の1967年、米の生産は1,426万トンもありました。それが今年は735万トンです。しかし、在庫が増えて米価が下がりそうだというので、来年はさらに生産を減らすと思います。1960年には米の消費は小麦の消費の3倍以上もあったのですが、今ではほとんど同じ程度になっています。小麦はほとんどが輸入です。このままだと外国産の小麦の消費が米を上回りそうです。

▼菅総理が既得権打破と言っても、政策の見直しはなかなか難しいでしょう。輸出目標の達成は困難だし、なにより日本は瑞穂の国ではなくなると思います。

Q9:人口減少や農家の現状、日本のこれからを考えると、どうすればいいのでしょうか?

▼養豚農家の平均所得は2千万円となるなど農家は貧しくありません。人口減少時代の生き残り戦略は発展する海外市場の開拓、つまり輸出です。政府の方針は間違っていません。そのためには、日本の輸出企業が成功してきたように、良いものを安く、つまり優良品廉価主義を基本とすべきです。

(▼優良廉価主義が輸出拡大のカギを握っている・・・。)