メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.10.01

WTO再生の旗頭を目指せー TPP拡大により米国・中国の取り込みをー

WTOの再生には、TPPの戦略的な拡大が有効である。米国の保護貿易主義や中国の国家資本主義を抑制するのには、高レベルの自由化を標準とするTPPを拡大し、WTO再生に繋げることが不可欠である。




改革者 (2020年10月号 特別インタビュー) に掲載 

通商政策 米国

米国大統領選の行方

大岩  本日は農業および通商政策のエキスパートである山下さんに色々とお話をお聞きしたいと思います。米中問題は日本に当然跳ね返ってきますし、大統領が代われば日本の通商政策にも 影響します。大統領選の行方をどのように 見ますか。

山下  まず大統領選でトランプ、バイデン のどちらが勝つのかというのは、ほとんどの州で選挙前にだいたいわかります。例えばニューヨーク州やカリフォルニア州はリベラル人口が多いですから民主党が勝ちます。ところが南部のアラバマ州やテネシー州などは伝統的に共和党が強い。一方、中西部のミシガン州、オハイオ州、北東部のペンシルベニア州、南部のフロリダ州はどちらに転ぶかわかりません。いわゆるスウィング・ステートとかトスアップ・ステートなどという言い方をしますが、こういう州が一六州ぐらいあります。トランプを支持しているのは主に白人で大学に行っていない人たち(ブルーカラーですが一六州のうちほとんどの州で大卒のウエイトが高まり、非大卒のウエイトが下がっています。また、そのうち一二州ぐらいではラテン系の人口が増えています。 選挙に参加できる資格のある人の数では圧倒的に民主党の優勢が強まっています。前回の選挙では投票総数でヒラリーの方がトランプを三〇〇万票も上回っていました。ところがアメリカは間接選挙制です。一般有権者は人口に応じて各州に割り当てられた「選挙人」を選び、その選挙人が大統領を選ぶ仕組みです。メイン州とネブラ スカ州を除いて一票でも多く得票した候補がその州の選挙人全員を獲得する「勝者総取り方式」ですから、総投票数で上回った候補が獲得選挙人数では下回り、大統領になれない可能性もあるのです。

中西部のラストベルトと呼ばれる、自動車産業、鉄鋼業が盛んな地域は従来から民主党の地盤でしたが、労働組合の人たちも、「民主党を支持しても一向に景気が良くならない」と相当にフラストレーションが溜まっていました。そこにヒラリーと民主党の予備選で争っていたサンダースが「自由貿易のせいで雇用が失われている。だから TPPからは脱退すべきである」とか、「NAFTA(北米自由貿易)もアメリカの自動車産業にとって不利だから見直す」と訴え、ヒラリーに勝ちました。それをトランプは見て、「サンダースと同じことを言えば ヒラリーに勝てる」と考え、中西部でほとんどの票を取りました。

今回の選挙も中西部が大きなポイントで す。中西部で票を取るためには、ラストベルトに加え、二つの要素があります。一つは、中西部ではバイデンの人気が高いことと、もう一つは農民票です。  中西部はラストベルトであると同時にコーンベルトでもあり、とうもろこしや大豆の栽培が盛んな地域です。中国は大量にこの地域の大豆を買っていましたが、米中貿易戦争で大豆の関税が上がり、中国は大豆の輸入先を米国からブラジルに乗り換えま した。コーンベルトの地域の人たちの間では、「共和党を支持したのに何だ」ということで、共和党に対する農民票の支持に陰りがみられます。

同時に、鉄鋼業の関税を上げて鉄鋼の価格を上げても、米国の鉄鋼製品は品質が悪くて提供できません。自動車の部品となる鉄にしても日本が提供している状況です。 鉄やアルミの関税を上げても十分な効果が 上げられなかったということで、この業界の人たちのトランプに対する失望も大きいものがあります。

重要なのはテキサス州で、伝統的に共和党が強い地域ですが、ラテン系を中心に人 口が増え、大統領選挙の選挙人の数が今では三八人になりました。カリフォルニア州は五五人、ニューヨーク州、フロリダ州は二九人ですから、このテキサス州でバイデ ンが勝つと勝負ありでしょう。以上のことからバイデンの方が有利かなと私は見ますが、トランプの場合は何と言っても熱狂的な支持者がいます。この支持者は必ず投票に行きますが、黒人やラテン系の人たちは投票に行きたがらないので、 このあたりがどう出るかでしょう。
 

 



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