メディア掲載  財政・社会保障制度  2020.09.14

【数字は語る】前提とする数字が甘い財政再建シナリオ 現実に即した試算が必要

週刊ダイヤモンド(2020年8月29日発行)に掲載

税・社会保障

30.8%% -1981年度から2019年度のTFP上昇率に関する内閣府データ「ヒストグラム」において、TFP上昇率が1.3%以上となる割合
出所:内閣府データを基に筆者算出

コロナ危機は、我々の社会・経済活動に甚大な影響を及ぼしているが、財政再建の目標にも影響が出始めている。例えば、内閣府は先般、経済財政諮問会議で「中長期の経済財政に関する試算」(以下「試算」)を公表した。試算には、2029年度の名目GDP成長率を約3%と見込む「成長実現ケース」と、成長率を約1%と見込む「ベースラインケース」がある。

政府は、国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB)を25年度に黒字化する目標を掲げるが、試算によると、高成長を前提とする成長実現ケースでも、PB黒字化は29年度となり、前回の中長期試算から2年遅れることになる。

低成長のベースラインでは29年度のPB赤字は約10兆円だが、現実にはもっと厳しいかもしれない。理由は、19年度において成長率に最も大きな影響を及ぼす「全要素生産性」(TFP)の伸び は0.4%しかないが、どちらの ケースもTFPが上昇する前提での試算となっているためである。 成長実現ケースでは、TFP上昇率は足元の0.4%から25年度までの5年間で1.3%に上昇する一方、ベースラインケースでも、 TFP上昇率は将来にわたって0.7%程度で推移する前提だ。

では、1981年度から2019年度におけるTFP上昇率に関 する内閣府データからヒストグラム(度数分布)を作成し、TFP上昇率が1.3%以上となる割合 を計算するとどうなるか。その割 合は30.8%となり、TFP上昇 率が25年度から5年連続で1.3 %を上回る確率は0.28%になる。 同様に、ヒストグラムにおいてTFP上昇率が0.7%以上の割合は82.1%となるため、TFP上 昇率が25年度から5年連続0.7%を上回る確率を試算すると37.2になる。この結果は、過去の TFP分布を前提にする場合、TFP上昇率を引き上げるシナリオ がいかに難しいかを示す。

人口減少や少子高齢化の問題は 現在も進行しており、コロナ危機を乗り切った後にはより深刻な形で財政・社会保障の問題に再び直面する。現実的なシナリオで試算を行う必要があるはずだ。