メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.08.24

アメリカ大統領選挙と通商問題

NHKラジオ第1 三宅民夫のマイあさ!「経済展望」 のコーナー(2020年8月21日放送)

通商政策 米国

今週、アメリカ大統領選挙で政権奪還を目指す野党・民主党の全国党大会が開かれ、

バイデン前副大統領が党の大統領候補に正式に指名されました。

Q1:113日の投票日に向けて、選挙戦が本格化しますが、

その中で、通商政策は、どのような重要性があるのでしょうか?

▼選挙戦では、中西部の票が鍵を握っている。中西部には、ミシガンやオハイオなど民主党、共和党のどちらが勝つか予想できない州がある。

▼この中西部は、ラストベルトと呼ばれる地域。デトロイトやクリーブランドなど、自動車や鉄鋼業で栄え、いまは産業が衰退している。トランプ大統領は前回の大統領選でこの地域に雇用を取り戻すと主張して当選した。

▼この地域の票を集めるために、自動車業界のために北米自由貿易協定NAFTAを見直したり鉄鋼の関税を引き上げたりしてきた。



Q2:新型コロナウイルスの感染拡大や人種差別の抗議デモへの対応などから、

トランプ大統領は劣勢が伝えられています。中西部での支持を上げるために、

新たな政策を打つのでしょうか?

▼トランプ大統領は、ラストベルトのために、通商政策を行ってきたがが、実際にはなかなかうまくいっていない。品質の劣るアメリカ製の鋼材は敬遠され、日本の鋼材が輸入されている。

▼最近でも、カナダからのアルミニウムの輸入に対して、一旦下げた関税をまた上げています。

▼中西部はコーンベルトと言われる農業地域でもある。中国との関係では、中国がアメリカ産の農産物などの輸入を大幅に拡大するという合意を行いました。しかし、中国は輸入を増やしていません。中国に圧力をかけることも考えられますが、中国が簡単に応じるとは思えませんし、選挙まで時間がありません。



Q3:では、優勢とされているバイデン氏が勝利した場合、通商政策にどのような変化が起こると考えられますか?

▼中国に対しては共和党も民主党も同じ強硬意見です。ただし、やり方は違います。トランプはタリフマンと称し、関税を上げて中国に圧力をかけるというやり方を採りました。他方のバイデン候補はオバマ政権の副大統領でした。そのオバマ政権が力を入れたのがTPPです。知的財産権の保護、投資に際しての技術移転要求の禁止など今アメリカが中国に要求しているものの多くはTPPに書かれています。TPPを拡大すると、将来中国もTPPに入らざるを得なくなる。その時に中国にこれらの規律を課そうとしたのです。(バイデン氏が勝利すると)TPPへの復帰が検討されるでしょう。

▼ただし、アメリカの場合、憲法上通商交渉の権限は議会にあります。今回の選挙で上院で共和党が議席を失い、両院とも民主党が多数を占める可能性があります。TPP脱退やNAFTA見直しなどトランプ大統領の政策は、民主党左派のサンダース上院議員の主張をまねたものでした。トランプ大統領は、通商政策については自由貿易的な共和党政権というより、民主党に近かったのです。民主党が大統領選挙と議会選挙で勝利すると、自由貿易に戻るというより、保護主義的な動きが強まることも考えられます。



Q4:バイデン氏が勝利した場合、またはトランプ大統領が再選した場合、

それぞれ通商面での日本への影響はどうなるのでしょうか?

▼トランプ大統領のやり方は、中国に対すると同様、アメリカの圧倒的な力を背景に二国間交渉で圧力をかけるというものです。再選すると農業も含めて日米交渉の第二弾を要求すると思います。バイデン氏は、日本などの同盟国や多国間の枠組みを重視するというスタンスです。WHOにも復帰すると主張しています。日本に要求するとしてもTPPなどの枠組みの中での要求に変わると考えられます。