メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.05.19

コロナは食料危機をもたらすか

日本経済新聞夕刊【十字路】2020年4月28日に掲載

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けてロシアやインドなどが穀物の輸出を制限しており、食料危機が懸念されている。

 しかし小麦、大豆、トウモロコシなどの輸出国はアメリカ、カナダ、オーストラリアなどの先進国が主体だ。小麦について見ると、この3カ国では輸出量が生産量の6~7割もの大きな割合を占めている。これらの国が輸出を制限すると国内に穀物があふれ、価格が暴落して、深刻な農業不況が生じる。特に1970年代の輸出制限で大きな痛手を被ったアメリカは、二度と輸出制限を行わない。

 コメは例外だ。輸出国はインド、ベトナムなどの途上国であり、貧しい国民への供給を優先して輸出制限がされやすい。これで2008年にはフィリピンが影響を受けた。ただし日本のイニシアチブによって東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国と日中韓3カ国による米備蓄制度が12年から始まり、これまでも危機時にはフィリピンなどにコメを支援している。08年のようなことは起きないだろう。

 日本はと言うと心配しなくてよい。食料支出のうち87%は加工・流通・外食などで、農水産物の割合は輸入2%、国産11%にすぎない。輸入の一部である穀物の価格が3倍に高騰した08年でも、食料品の消費者物価指数は2.6%上昇しただけだ。

 アメリカでは政策変更によって、トウモロコシの用途はエタノール向けが増加して飼料向けと並ぶ規模になっている。08年、原油値上がりがエタノール向けの需要を押し上げ、さらにトウモロコシ価格の上昇は大豆、小麦、コメに波及した。このように、今では穀物価格は原油相場に連動している。直近では需要の大きな落ち込みで原油価格が暴落している。世界は食料危機よりも穀物価格の暴落を心配すべきなのかもしれない。