メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.04.28

新型コロナウイルスと食料危機の可能性

NHKラジオ第1 三宅民夫のマイあさ!「経済展望」 のコーナー(2020年4月24日放送)

Q1:いま、食料の輸出の制限をめぐって、どのような動きがあるのでしょうか?

 先月31日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、そして世界貿易機関(WTO)の事務局長が共同で声明を出し、新型コロナウイルスの影響によって国際市場で食料品不足が起きかねないと警告を発した。

 食料の中で、危機に直結するのは穀物。エネルギーを得る意味で一番重要な食料。

 具体的には、ロシアが4月から6月に小麦の輸出の制限を行うとしている。インドも米を輸出制限するとしている。ただし、量からみると大きなものではない(ロシア4~6月期720万トンを700万トンへ制限)。


Q2:日本への影響は考えられるのでしょうか?

 今回の新型コロナウイルスによって、一部の国が輸出制限を行ったとしても、日本に食料危機は起きる可能性は少ない。  日本が輸入している穀物の小麦、大豆、トウモロコシなどの輸出国はアメリカなどの先進国が主体。輸出量が生産量の大きな割合を占めているこれらの国は、輸出市場が重要なので、輸出を制限しない。過去輸出制限をしたアメリカは大きな痛手を被った。日本はロシアから小麦を輸入していない。

 穀物でも米については、輸出国はインド、ベトナムなどの途上国であり、貧しい国民への供給を優先するため、輸出制限が行われやすい。同じく米の輸出国でもタイは所得が高いので輸出を制限しない。そもそも米に関しては、各国とも自給が基本で貿易量は小麦の4分の1くらいで極めて少ない。インドの貿易制限で影響を受ける国はわずか。日本は減反をしているくらいで、国内供給に問題がないので、心配はない。(買いだめなどの心配はいらない状況。)


Q3:ではなぜ、そのような輸出制限の動きが起きるのでしょうか。

 近年では、2008年に穀物価格が3倍に上昇したことがあった。アメリカ政府の支援や原油価格の上昇によって、トウモロコシをガソリンの代わりとなるエタノールの原料として使用することが増えたことが理由だった。需要が増えたトウモロコシの価格が上昇したことから、連鎖的に大豆、小麦、米の価格が上昇した。

 国際価格が高騰すると輸出を制限する国が出てくる。2008年、インドが米の輸出を停止した。自由な貿易に任せると、穀物は価格が低いインド国内から高い価格の国際市場に輸出される。そうなれば、国内の供給が減って、国内の価格も国際価格と同じ水準まで上昇してしまう。収入のほとんどを食費に支出している貧しい人は、食料価格が2倍、3倍になると、食料を買えなくなり、飢餓が発生する。インドはこれを防ごうとした。このため、米を輸入する途上国のフィリピンなどでは、米の入手が難しくなる人が出た。ただし、日本の食料支出のうち農水産物の割合は輸入も含めて13%。87%は加工や外食など。2008年の穀物価格高騰でも食料品の消費者物価指数は2.6%上昇しただけ。

 2008年の事態が今回も起きるのか不明。2008年のように、穀物価格が原油の価格と連動するようになっている。原油の価格が下がるので、2008年と逆の現象、つまり穀物価格の低下が起きる可能性がある。


Q4:危機が起きると、途上国に影響が大きいということでしょうか?どのような食料危機の懸念があるのでしょうか?

 食料の安全保障には2つの要素がある。1つは、食料を買う資力があるかどうか(経済的な可能性)と、2つ目は、食料を現実に入手できるかどうか(物理的な可能性)。貧しい途上国ではどちらも欠けている。

 食料品価格が上がると、収入のほとんどを食費に支出している人は、買えなくなる。コロナウイルスによって収入や所得が減少しても、同じことが起きる。このとき、先進国が港まで食料を援助しても、内陸部までの輸送インフラが整備されていないと、食料は困っている人に届かない。物理的なアクセスが問題となる場合である。今回の新型コロナウイルスでは、この両面から、途上国に食料危機が起きる可能性がある。


Q5:途上国での食料危機を防ぐために、いま何が求められているのでしょうか?

 長期的には、途上国の食料をめぐる脆弱な状況、つまり所得やインフラの問題を解決していかなければならない。

 幸い、東アジアの地域では、日本のイニシアチブによってASEAN諸国と日中韓三か国による米備蓄制度(APTERR)が2012年から実施され、これまでも危機時にはフィリピンなどに米を支援している。2008年のようなことは起きないだろう。日本はこうした取り組みを世界に発信していくべき。